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大阪出身の妻と2児の子育て奮闘中。子育ては最高の小児科学の教科書です。モットーは“think globally, act locally, and love your family”。小児科・神経学・医学教育を世界で学び、グローバルな視野を持つ後進を育成することが夢です。

桑原 功光

北海道出身。2001年旭川医科大学卒業。1年間の放射線科勤務の後に岸和田徳洲会病院で初期研修。都立清瀬小児病院、長野県立こども病院新生児科、在沖縄米国海軍病院、都立小児総合医療センターER/PICUと各地で研鑽。2012年度からハワイ大学小児科レジデント。2015年よりテネシー州メンフィスで小児神経フェロー、2018年7月より臨床神経生理学(小児てんかん)フェロー開始予定。日米両国の小児科専門医。

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2016/04/04

Delta Regional Authority Waiver – ミシシッピ流域でのJ-1 waiver

ついに新年度となる4月になりましたね。実はメンフィスやその郊外のジャーマンタウンには桜の木が多く、道のいたるところで満開の桜を目にすることができます。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」ですね。

こうした四季の変化を見るにつれ、郷里の念が日本に帰りたい思いをゆり動かしますが、私の知人には、そのままアメリカに残るという選択肢を選んだ方も少なくありません。しかし、臨床留学でアメリカに来た方には周知である悪名高き”2 years rule”があります。これは最も一般的なビザであるJ-1ビザで臨床留学した場合、最大7年しかアメリカには在住できず、たとえアメリカで継続して勤務したくとも、強制的に自国に2年間帰らざるをえません。その2年間の帰国を回避する方法があります。それが”J-1 waiver”です。

J-1 waiverは一言で言うと、アメリカ僻地で数年間働く代わりに、アメリカに居続けることが可能になる交換条件のことです。ECFMG certificate(アメリカでの臨床研修許可証)を取得する日本人は、諸外国に比べると圧倒的に少なく、2014年では、インド人 1162人、パキスタン人 721人、中国人 218人に比して、日本人はたった57人でした。インド人の約20分の1しかいません。インド人やパキスタン人などの外国医学部出身者は日本人以上にアメリカに残るのに必死なため、J-1 waiverのポジションを得るための、独自のネットワークを持っています。日本でもJ-1 waiverについては「米国医学留学のすべて(日本医事新報社)」「アメリカ臨床留学への道(南山堂)」やネットを通じて、様々な情報が手に入るようになりましたが、以下に述べるDelta Regional Authorityについては、日本語でまだ情報がありません。今回、Delta Regional Authorityについて、報告しようと思います。

まず、J-1 waiverには以下のように、いくつか選択肢があります。

  1. Conrad state 30
  2. Veterans Affairs (VA) Waiver (在郷軍人病院)
  3. Appalachian Regional Commission (ARC) Waiver
  4. Delta Regional Authority (DRA) Waiver

J-1 waiverで最も一般的なのはConrad state 30です。各州毎年30人がwaiverできます。人気のある州とない州があり、New York州など応募者が多い州は必然として競争率が高くなります。また、各州平等に30人まで受け入れるので、面積の大きいテキサスでは、単位面積あたりのポジションは少なくなり、逆に1番面積の小さいロードアイランドでは、ポジションが比較的、獲得しやすくなるようです。アメリカで田舎の州に行くと、レジデントやフェローを終えた外国人医師が多い理由の1つは、このConrad state 30を経て、J-1 waiverを取得した医師が多いからです。一般内科、家庭医、小児科などのPrimary careが優先されます。西海岸や人気のある都市(シカゴなど)では、J-1 waiverは大変競争率が高く、ポジションを得るのは困難です。

VA waiverは、アメリカ各地にある在郷軍人病院で勤務します。在郷軍人病院はアメリカでは一般的に、他の総合病院よりも提供できる医療レベルが劣る施設とみなされているためか、このwaiverを行った日本人を聞いたことがありません(私が知らないだけかもしれません)。

ARC Waiverは、アパラチア地方と呼ばれる13州(Alabama, Georgia, Kentucky, Maryland, Mississippi, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, South Carolina, Tennessee, Virginia, West Virginia)の中の、医師不足の僻地で、Primary Careに従事するものです。これも日本人で行った方を聞いたことがありません。

今回報告したいのがDRC Waiverです。これは、ミシシッピ州流域の8州で(Alabama, Arkansas, Illinois, Kentucky, Louisiana, Mississippi, Missouri, Tennessee)の医師不足の地域で医療に従事するものです。従事期間は3年間です。以下の写真が当てはまる地域です。

http://www.ers.usda.gov/media/359725/feature1_fig01_2_.gif

DRC WaiverにはPrimary careにのみならず、各種専門家も応募できます。Conrad state 30を通じて、大学病院やこども病院などのアカデミックなポジションでJ-1 Waiver を行うことはとても困難です。ところが、Conrad state 30と異なり、DRC Waiverにはアカデミックなポジションの数に制限がありません。 

私もここに来て初めて知ったのですが、メンフィスはなんと、大学病院やこども病院を抱えているにも関わらず、まさにこのARC waiverの地域に含まれているので、J-1 waiverのために来た(そしてそのまま移住した)指導医がたくさんいます。ちなみに、このARC Waiverの範囲で、比較的大きな都市は、テネシー州メンフィス、アーカンソー州リトルロック、ミシシッピ州ジャクソン、そしてルイジアナ州ニューオーリンズです。つまり、この都市であれば、Primary careでなくとも、大学病院やこども病院で専門医としてwaiverできるチャンスが高いということになります。

https://www.linkedin.com/pulse/my-report-tn-department-health-j-1-waiver-webinar-adam-cohen

このレポートによると、テネシー州は興味深いことに東側にはDRA、西側はARCが存在します。Waiver希望者はそちらに応募するためか、Conrad stateの30人の枠は8人しか埋まりませんでした。また、Medscape Best & Worst Places to Practice 2015 によると、テネシー州は全米の中で医師が働きやすい州第1位にランキングされました。

http://www.medscape.com/features/slideshow/best-places-to-practice-2015

メンフィスはLe Bonheur Children’s Hospitalに加えて、世界に名高いセントジュード病院(世界最大規模の小児ガン専門病院)もあるため、日本人の臨床医、研究者が多い都市です。その中には、このメンフィスにDRA Waiverのために異動された日本人医師もいます。ルボーナー小児病院の小児神経科の指導医の中には、40年以上勤務され絶大な信頼を誇る日本人医師います。そのため、日本人の私にとってはとても勤務しやすく、居心地のよい環境です。また、ミシシッピ州のジャクソンにもDRA Waiverを通じて、J-1 waiverのために異動された日本人医師がいます。DRA Waiverは今後、日本人のJ-1 waiverのひとつの選択肢になるかもしれませんね。

以上、ミシシッピ流域のメンフィスより、ルボーナー特派員レポートでした。

2件のコメント

  1. 齋藤 雄司 より:

    デルタリージョナルオーソリティとアパラチアンリージョナルコミッション、知りませんでした!目からウロコ状態です!桑原先生のおっしゃるように、日本人は、研修が終わると帰国してしまう人が多いですが、今後はこのような制度を利用して、アメリカに残る人も増えてほしいと思います。そうして、アメリカに残った日本人が、今度は、臨床留学を希望する日本の後輩の手助けをするという良い循環を生み出さなくてはなりません。インド人やパキスタン人は、とうの昔にしていることですよね:)

    • 桑原 功光 より:

      齋藤雄司先生、コメントありがとうございます。私もここメンフィスに来て、何人かの日本人医師に会うまで、このシステムを全く知りませんでした。せっかくフェローまで修了して専門性を高めても、Waiverで専門科として勤務する場所が見つからず、結局Primary Careで3年間過ごさざるを得ない、ということがあるそうですね。私の勤務する Le Bonheur Children’s Hospital はこのDelta Regional Authorityの範囲で U.S.News Best Children’s Hospitalに数多くの専門科がランキングされている唯一の小児病院ということもあり、多くのIMGを目にします。こうして日本語でも情報を増やすことで、後進のお役に立てれば幸いです。

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