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大阪出身の妻と2児の子育て奮闘中。子育ては最高の小児科学の教科書です。モットーは“think globally, act locally, and love your family”。小児科・神経科・医学教育を世界で学び、グローバルな視野を持つ後進を育成することと、息子たちとアイスホッケーを生涯続けることが夢です。

桑原 功光

北海道砂川市出身。2001年旭川医科大学卒業。1年間の放射線科勤務の後に岸和田徳洲会病院で初期研修。都立清瀬小児病院、長野県立こども病院新生児科、在沖縄米国海軍病院、都立小児総合医療センターER/PICUと各地で研鑽。2012年-2015年 ハワイ大学小児科レジデント修了。2015年-2019年 テネシー州メンフィスで小児神経フェロー、臨床神経生理学(小児てんかん)フェロー修了。2019年9月よりミシガン州デトロイトのChildren's Hospital of Michiganで小児神経科&てんかん医として勤務開始しました! 日米両国の小児科専門医&米国小児神経科専門医。

桑原 功光のブログ
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2020/05/14

ポストコロナ時代へ向けて よろず雑記 後編(アイスホッケー)

ミシガン州の主要産業のひとつは自動車産業であるため、ミシガン州は西海岸やニューヨークに次いで、日本人コミュニティーが多い州です。特にデトロイト郊外のノバイ(Novi)には自動車産業やハイテク関連の企業のオフィスが集中して、日本食レストランや日本食マーケットもあり、治安も極めて良好であるため、日本人が集まって「リトル・ジャパン」の様相を呈しています。また、ノバイには全米を代表する規模の日本人学校があり、全校で約1000人前後(!)のこどもたち(幼稚園児・小学生・中学生・高校生)が毎週土曜日に集って、授業に取り組んでいます。

しかし、ノバイの問題点は、私が勤務しているミシガン小児病院(デトロイトのダウンタウン)から比較的遠いことです(車で約40分、雪が降ると1時間以上になることも)。日本の勤務医に比べると時間に余裕があるとはいえども、早朝や夜遅くに通勤するには決して楽な場所ではないため、私たち家族は別の地域に住んでいます。また、我が家の息子たちは日本人学校には通っていません。その最大の理由が「アイスホッケー」です。

アイスホッケーは日本では競技人口も少なく、地域性が偏るため、非常にマイナーなスポーツですが、米国、カナダ、ヨーロッパ、ロシアでは非常に人気が高いメジャースポーツです。特に米国ではミシガン州、ミネソタ州など寒冷地で競技人口が多く、幼い頃からアイスホッケーを楽しんでいる家庭が少なくありません。我が家の長男は7歳、次男は5歳からアイスホッケーを米国南部のテネシー州にいた頃に始めました。昨夏にミシガンに異動して、何より先に決めたことのひとつが息子たちが所属するトラベルチームでした。それからコロナウイルス騒動でミシガン全州のアイスリンクが閉鎖される2020年3月までの約半年間で、ミシガン州はもちろん、遠くはニューヨーク州、オハイオ州まで、計25か所以上のアイスリンクで息子たちはアイスホッケーを楽しむ機会に恵まれました。アイスホッケーは私たち一家を結びつける大事な絆となっています。

米国でこどもたちがスポーツ(アイスホッケーはもちろん、野球、バスケットボール、サッカーなども)を始める場合は「ハウスチーム」「トラベルチーム」のどちらに所属するかがまず問われます。簡単に説明すると、ハウスチームとはスポーツそのものを楽しむことをメインとしているチームであるのに対して、トラベルチームとはその名の通り、各地に遠征をして練習試合やトーナメントに参加して勝つことを目的に切磋琢磨するチームです。トラベルチームに入るには、シーズン初めにトライアウトを受けなくてはいけません。アイスホッケーのハウスチームは氷上練習が週1-2回程度に対して、トラベルチームでは氷上練習が最低でも週2-3回はあり、それに加えて、シーズン中の週末は練習試合もしくは遠征がほぼ毎週、必ず組み込まれます(つまり、どんなスポーツであれ、こどもがトラベルチームに所属した場合、親は週末の休暇はないに等しいと覚悟しなくてはいけません)。そのため、我が家の息子たちは行かせたくとも日本人学校には行けず(日本人学校は土曜日にあるため)、私と妻がずっと自宅で息子たちに日本語を教えています。

ミシガン州でアイスホッケーのトラベルチームに所属するには、まず自分の住んでいる地域がミシガンアマチュアホッケー協会(MAMH:Michigan Amateur Hockey Association)でどのDistrictに該当するかを確認するところから始めます。基本的には自分が住んでいるDistrictにあるチームにしか所属できません。

https://www.maha.org/page/show/1204718-districts

各Districtごとに年齢や実力に応じたチームが数多く存在します。その中で所属したいチームを決めて、そのトライアウトを受けて合格して、やっとそのチームに入ることが認められます。例外として、各チームは他のDisctrictから越境してくるこどもを3名まで採用することが許されています。つまり、自分のDistrict以外のチームに入る場合は、さらに厳しい枠に入らなくてはいけないため、競争率がさらに高くなります。

ミシガン州のアイスホッケーは競争が激しく、「ちょっとアイスホッケーが上手い」程度の子はざらにいます。まずハウスリーグで慣れてからトラベルチームに移行する、そして上を目指すこどもはシーズン開始前にトライアウトを受けて、さらにレベルが高いトラベルチームに移籍する、というのが一般的です。

私は日米のアイスホッケーの環境を比較するうちに、広い視野から多角的に捉えて改善点を見つけるプロセスそのものが、同様に問題を抱えている医療現場でも応用できるかも知れないと思うようになりました。日米のアイスホッケーの違いで気づいた点を以下に述べます。

#1. 多くの日本の父母の方から「実力に応じてチームが細かく分かれていると、実力による階層構造(ヒエラルキー)が生まれて良くないのでは?」とたびたび質問を受けます。しかし、私はそれはむしろ逆であり、こどもたちの将来の伸びしろを広げたいのであれば、きちんと実力によってチームを分けて、それに応じた練習やトーナメントを提供すべきだと思います。スポーツは「練習しなければ上手くならない」ので「適切なレベルの試合や練習に暴露する時間を適切に増やす」というのが本来あるべき考えです。

最近になり、「ロークォリティーゲーム(low quality game)」という考えが少しずつですが認知されるようになってきました(現在アリゾナ州でプロアイスホッケーコーチをされている若林弘紀氏が最初にこの考えを日本に導入されました)。これは6点以上の点数差が開いて、両チームにとって行う意味が乏しい試合(学びが少ない試合)を指します。ここミシガンで息子たちの試合を見ていて、ロークォリティーゲームを見ることはまずありません。しかし、日本ではアイスホッケーはマイナースポーツで競技人口が少ないためか、どうしてもロークォリティーゲームが散見されます。例を挙げると、北海道のとある都市で行われたインターハイ予選の約半数がロークォリティーゲームだったという報告があります。

https://twitter.com/icehockey6110/status/1221428651817701376/photo/1

大会主催者の意識が変わらない限り、今後もしばらくこうした状況は変わらないでしょう。将来的にはトーナメント制を注視して、チームの実力によってリーグを分けて、総当たり戦にするのが望ましい解決法だと思います。

#2. 私たち家族の知り合いで、米国でアイスホッケーを始めて、帰国した後もアイスホッケーを楽しんでいるお子さんがいらっしゃいます。しかし、聞いたところによると、彼のコーチは遠征先で彼を技術不足という理由で全く試合に出さずに、ベンチから見学しか許さなかったそうです。これはこの子の将来を考える上で正しいコーチングなのでしょうか? アイスホッケーはそもそも試合の中で次々と選手が交代するスポーツで、野球やサッカーと異なり、比較的試合に出やすい競技です(氷上に乗っている時間の差はあれども)。お金を払わせて遠征まで連れてきておいて「技術不足だからまだ出さない」という方針は、コーチの痴態としか言いようがありません。こどもは「経験できることで初めて伸びる」し、「経験できるからモチベーションを維持できる」のです。上記のようなコーチは米国では間違いなく父母につるし上げにされるでしょう。

#3. 最近、米国の育成年代のアイスホッケー練習では、アイスリンクを全面使わずに、アイスリンクを分割して「ステーション」を作り、人数を分けて様々な異なる練習メニューを各ステーション内で行い、時間ごとにステーションを交代させる「スモールアイストレーニング」が主流です。ぼーっと立っている待ち時間を減らし、アイスパックに触れる回数を増やして、さまざまな練習に触れさせることが可能になります。おそらく日本でも少しずつこの考えが浸透しているはずです(と信じたい)。しかし、私がかつて一緒にアイスホッケーをした旭川の知人から聞いたところでは、旭川ではコーチが基本的にはみなボランティアで行っており、コーチの数を確保することが難しく、こどもたちを複数のステーションに分けることは困難であること、そして一部の親から「なぜお金を払っているのに、全てリンクを使用できないのか」という苦情もあり、なかなか道のりは遠いようです。

#4. 北米(米国・カナダ)では、中年以後もアイスホッケーを楽しんでいる方が大勢います。そもそも、アイスホッケーは「生涯スポーツ」です。私は毎週末の早朝7時より近所のアイスリンクで「親父ホッケー」に参加するのが何よりもの楽しみですが、ここにはホッケー好きの中年・初老の方が多く集って、練習試合をしています。大事なルールとして、北米の社会人ホッケーでは「体当たりは禁止」が一般的です。私が参加している週末ホッケーの参加者の年齢は主に30代から60代ですが、他地域では80代や90代でも続けている方もいます。

それに対して、日本では社会人になると、アイスホッケーを楽しむ時間も場所もまずありません。医師は多忙過ぎて休日がありません。ご存知ない方も多いと思いますが、医師が開業する理由の主因は「私生活の確保」です。金銭を求めてではありません。医師の平均寿命は10年も短いという報告もあります。日本では、医師は自らと家族の時間と人生を犠牲にして患者に貢献することが「赤ひげ」として望まれており、日本の医師の過重労働は改善がなかなか進みません(特に小児科、産婦人科、外科系医師)。しかし、「自分と家族の幸せなくして、社会の幸せは望めない」というのも事実なのです。

https://hodanren.doc-net.or.jp/news/tyousa/071113iryoukenn.html?utm_content=bufferf2973&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

私は今、米国で医師をしているからアイスホッケーの時間を確保できますが、帰国したらアイスホッケーを続けることはまず不可能でしょう。

***

日本のアイスホッケーを取り巻く環境は世界からどんどん取り残されており、競技人口がはるかに少ない韓国にもすでに追い抜かれました。1982年に日本アイスホッケー男子チームは韓国に25-0で圧勝していたのが、昨年2019年の国際試合で韓国に2-5で敗れてしまいました。ニュースではほとんど話題にもならなかったこの日本アイスホッケー男子チームの敗退は日本の医療界の未来像と重なるようで、危惧の念がともわざるを得ません。

医療界でも、大学医局が人手不足から海外に研究留学を許可する余裕がなくなったり、臨床留学のハードルがどんどん高くなっている結果、海外に研究・臨床留学する日本人医師はますます減少し続けています。ただでさえ、2023年以降は、米国のECFMG(Educational Commission For Foreign Medical Graduates)の国際認証を受けていない日本を含む外国の医学部卒業生は、米国の医師免許資格を得ることができなくなります(「2023年問題」)。ECFMGの要求する医学教育の国際基準を評価を満たすために、日本中の医学部がカリキュラム改革を進めていますが、現時点(2020年5月)で日本全国の医学部82校のうち、国際基準を満たしているのは39校と未だに半数にも至りません(下記 日本医学教育評価機構ウェブサイトより)。

https://www.jacme.or.jp/en/pdf/Evaluation%20results.pdf

残りの医学部は2023年まで間に合わなければ、その医学部を卒業しても米国で医師として勤務できないのです。また、医学教育の国際基準は今後も変わることが予想され、改善を続けなければ、1回目に合格しても、2回目に合格するとも限りません。医学教育でも日本は土俵際に追い詰められています。

このように、将来を見据えて行動を起こさないと、アイスホッケーも医療界も衰退をたどるでしょう。日本のアイスホッケーについては、競技人口の衰退をまず食い止めなくてはいけません。氷都とかつて呼ばれた苫小牧、釧路ですら、アイスホッケーの競技人口の減少に歯止めがかかりません。アイスホッケー部員の減少のために単独校でのチームづくりが難しく、合同チームを組んでトーナメントに出場することも多くなっているようです。私がアイスホッケーをしていた旭川では、唯一あったアイスホッケー店がすでに閉店してしまいました。日本のアイスホッケー界は「競技人口の維持および増加」が喫緊の課題です。せっかく幼少期にアイスホッケーを始めても、年齢が上がるにつれてアイスホッケーを何らかの理由で続けられずに、止めてしまうこどもたちが多いのです。育成時代のプレイヤーがホッケーに見切りをつけてしまわないように、ロークォリティーゲームを減らすべく試合編成を調整したり、指導者の質を担保するシステムを構築しなくてはいけません。日本はどの業界にせよ「ダイナミズムの乏しさ&制度の硬直化」という問題で山積みです。でも、このままでは日本のホッケー人口は先細りになる一方です。

このように暗い話題が多い日本のアイスホッケーの現状の中、明るい話題も出てきました。そのひとつが「横浜GRITZ」です。

https://grits-sport.com

神奈川県横浜市を拠点とした新しいアイスホッケーチームが、アジアアイスホッケーリーグに新規加盟を申請しました。このチームのコンセプトのひとつが「デュアル・キャリア」であり、一般企業で働きながらアイスホッケー選手としてプレーする「デュアルプロ」 の育成を旗印に掲げています。ちなみに「GRITZ」とは「やり抜く力」という意味があります。私たちが昨年までいたメンフィスのプロバスケットボールチーム Memphis Grizzliesのスローガンが”Grit and Grind”で、親近感を感じます。

また、先述の若林弘紀氏も参加されている YouTube LIVE「激論!?ホケトーーク」が4月末より始まりました。医学生でアイスホッケー部の方はぜひご覧になってください。アイスホッケーの将来についての熱い議論は日本の医療界にも応用できるものがあり、私は毎回楽しみに拝聴しています。

https://www.youtube.com/channel/UCVKPNZLqPP_aX9E08ASGPXQ

***

人生はよくスポーツに例えられます。日本人であれば何と言っても野球でしょうか。「人生は9回裏まで何が起こるかわからない」とよく言います。しかし、私は人生はむしろ野球よりもアイスホッケーに近いと感じています。野球は1球ごとに動作が止まり、攻撃側も守備側もある程度決められた場所からプレーを再開する、打者はダイアモンド上を走ることが決まっている、言わば、野球は「静的」なスポーツです。

対して、アイスホッケーは基本的には動作が止まらず、立ち止まることはほとんどありません。次にどこに行くかわからないパック(アイスホッケーの球)を追いかけて移動する自分と相手との位置関係は瞬時に変化しており、臨機応変に状況を判断して次の行動を選び、その行動がもたらした結果をもとに次の決断を行う、言わば、アイスホッケーは「動的」なスポーツです。特に中年以後の人生はこどもたちの成長、親の老い、自らのキャリア形成や老後への準備などなどが次々に目の前に現れて、立ち止まって考える暇がなかなかありません。状況は刻一刻と変わるため、その時のベストの選択肢が後にベストになる保証はありませんし、そもそも正しい選択肢がひとつしかない状況なんて人生ではまずありません。常に「行くと決めたらまず走る。その選択には後悔しない。そこからまた最善の道に向かってまた走るだけだ」という姿勢が大事ではないでしょうか。

そう、人生はまさにアイスホッケーです。私たち一家はコロナウイルスが沈静化してアイスホッケーを再開できる日を心待ちにしています。

ミシガン州デトロイトから、こどもたちの未来に祈りを込めて。

2件のコメント

  1. 長山忠正 より:

    桑原様
    初めてメッセージを差し上げます、タイのバンコク在住の長山と言います。桑原様は、私が参加している「頑張れニッポン!アイスホッケー応援隊」と言うFacebookの中で、桑原様のブログが紹介されており、そこで知る事となりました。私はホッケー途上国に住んでいますが、桑原様のブログを拝見し我が意を得たり!と感じ行った次第です。我が家ではバンコク生まれの息子が12歳の時当地でホッケーを始め、17歳でどうにも我慢が出来ずカナダへ渡り、その後スウェーデン、デンマーク、ドイツと6年間渡り歩きました。おかげで素人の私も日本や海外のホッケー事情に触れる事となり、わかればわかるほど日本のホッケー界がいかに危篤状態であるかを知りました。
    色々な方がされている上記のグループですが、もしよろしければ訪問してみてください。
    もちろんメンバーになっていただけるなら大歓迎です。そしてアメリカでのホッケー事情などもご紹介いただければメンバーも嬉しいと思います。
    突然のメッセージお許しください。   長山

    • 桑原 功光 より:

      長山様
      ブログをご覧いただき、ありがとうございました。
      今後、日本でもさらにアイスホッケーが大きく話題になればよいのですが、まだまだ道のりは遠いですね。
      私も自分にできることから、日本のアイスホッケーを応援したいと思います。
      「ポストコロナ時代 前編」もよろしければご覧になってください。

      今後もよろしくお願いいたします。

      桑原 拝

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