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松本菜々

ブログについて

栄養士といっても興味は、低栄養や栄養サポート。日本でも臨床を経験した栄養士が感じるアメリカでの実践栄養について 紹介していきたいと思います。

松本菜々

日本の病院で在宅栄養を確立し、Nutrition Support Team を立ち上げた後渡米。ミネソタ大学院終了後ハワイの病院に就職し、現在は、南カルフォルニアの小さな病院でメイン臨床栄養士として、情熱をもってICU,急性期病棟の患者栄養管理をしています。

ひたむきに頑張ってきてよかった。私は、時間をかけても確実に結果を出す仕事をしていると自負している。嬉しい出来事があった。

ICU の BiPAP(non invasive ventilation)使用の患者さんに 経管栄養を 開始することができた。それも主治医の全面的なバックアップ 付き。静脈栄養をせず、腸管に栄養を継続的に送れたことも手伝って、患者さんは、意識もはっきりしてナーシングホームへ退院していった。この患者さんが、経管栄養でなく、静脈栄養だったらこのような回復をできただろうか。

BiPAPは、大きな酸素マスクで100%の酸素(空気中の酸素濃度は約21%)を送っているのを想像してもらえればいい。マスクと顔がぴったりくっついていないといけないので、鼻からでも口からでも、チューブがマスクを邪魔して経管栄養は無理だと思われることがよくある。しかし呼吸療法士も認めている、この経管栄養のチューブは、酸素供給を邪魔しないということは以外に理解されていないこともある。それは、チューブによるマスクと顔の間の隙間で、十分な酸素を送れないと思われること。そして、経管栄養がだめなら静脈栄養となる。経口食は、一口ずつ大きなマスクをとらなくてはいけないので、経口摂取だけで患者さんの必要量の栄養を取るのは難しい。

ただ、消化器官が正常であれば、「腸を使う」ことが臨床栄養では鉄則。有名なバクテリアルトランスロケーションを防ぐためでもある。人間の約70-80%の免疫力は、腸の健康にあるといわれる。よって腸に栄養を送らないと、腸が生きていられない、絨毛がなくなっていく、栄養が吸収できない、そして、免疫力が落ちる、腸内のばい菌が血液にのって、最悪は敗血症になりかねない。

このことからも、臨床栄養士は少しの量でも腸に栄養を送ること(静脈栄養より経管栄養)に 情熱をそそいでいることも稀ではない。

こんなことを、昨年一年間を通して、病院の全看護婦さんに話していたことが、実を結んだ。ある医師が、人工呼吸器を抜管した後BiPAPをつけていた患者さんに、静脈栄養をオーダーしようとしたところ、担当の看護婦さんが、「うちの栄養士さんはきっと嫌がるわよ。」と言ってくれたらしく、その医師が わざわざ私を探してやってきた。そして「どうして静脈栄養がだめなんか、説明してくれるか?」と私の意見を聞いてくれた。説明すると、「では僕が、患者さんの娘さんに経管栄養をしていいか承諾をえてくる」といって、すぐ話に行ってくれた。そして患者さんの状態が、*特別な栄養剤を使用した方がいい状況だったが、人工呼吸器をしていた時に経管栄養が十分投入できなかったことなど話して、栄養剤の選択とその後の経過も一緒にみていこうなどと話してくれた。

呼吸療法士とも話をして、経管栄養チューブとBiPAPを同時にするということを話した。これがまさにチーム医療。

アメリカでは、当たり前だと思っていたチーム医療も、小さい病院だと難しい。病院専門に働く医師が圧倒的に少なく、多くの医師が自分の外来の患者さんなどを診る合間に病院に来ることが多いからだ。その看護婦さんとも、毎回顔を合わせる度に感じる連帯感は、本当に嬉しい。 こういう一つのことを大切に仕事をして、得ていく自分の場所は、有難い。

それに、今回の患者さんは、病態がよくなって経管栄養もはずせて、意識もよくなって退院していった。皆が諦めていたくらいの患者さんだったのにほんとによかった。しかし、多くの呼吸器疾患の患者さんは、長い年月を経て、痩せてICUに来ることも少なくない。

次回は慢性呼吸器疾患からの栄養管理について書いてみようと思います。

 

*特別な栄養剤― 先月アップデイトされた栄養サポートの新しいガイドラインにも明記してあるように、呼吸器用の特別な栄養剤は使用していません。カリウムが高かったためにNeproという腎疾患用の栄養剤を使用しました。

 

2件のコメント

  1. 本当にこれがチーム医療ですね。松本さんのところに話を聞きに来た医師も大したものです。きっと働きやすい良い雰囲気の病院なのでしょうね。それにしても「栄養士が嫌がるわよ」とナースに言われるくらい存在感があるなんてすごいです:)

    • 斉藤先生   コメントありがとうございます。そうなんです。 その医師は、看護士も家族もみんなその患者さんのことを 諦めていたのに、(話しに聞いていたところ)まるで一人で頑張っていたという感じのようでした。 医師のリーダーシップによって、チームの方向性がかわりますから、医師の重役を改めて実感させられる例でした。

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