Skip to main content
小林美和子

ブログについて

小林美和子

世界何処でも通じる感染症科医という夢を掲げて、日本での研修終了後、アメリカでの留学生活を開始。ニューヨークでの内科研修、チーフレジデントを経て、米国疾病予防センター(CDC)の近接するアメリカ南部の都市で感染症科フェローシップを行う。その後WHOカンボジアオフィス勤務を経て再度アトランタに舞い戻り、2014年7月より米国CDCにてEISオフィサーとしての勤務を開始。

その(1)より

薬を処方する医師が錠剤をみて何であるかすぐわかる例は、実際のところあまり多くないのではと思っている。というのも、処方はするものの、実際に薬を患者さんに渡すのは薬剤師さんであり、薬の詳しい説明も、ナースや薬剤師さんが行ってくれる事が多い。日本に勤務していたときは、薬を処方すると、カラー写真付きの薬の説明文章がついていて、「わかりやすくていいな」と思ったものだが、こちらに来て、そのようなものにお目にかかった事がない。アメリカで薬を処方されると、多くの場合、オレンジのプラスチックの容器に薬を入れて患者さんに渡る。容器に内服方法が印字されたラベルが貼ってあるのだが、以前に字が読めない患者さんを担当したことがあり、ラベルはあっても似たような容器をいくつも渡されては混乱しても仕方がないな、と思った事がある。

また、実際の薬の大きさや形状、実際に患者さんが内服する錠剤数を自分の目で確認出来たのも、「あてっこクイズ」の成果だと思っている。ファーストラインと言われる抗HIV薬レジメンの多くが1日1回内服が可能なものである。今では一日一錠のオプションも登場しているが、まだ種類は限られている。先日1年ぶりに外来にやってきた、若いHIV患者さんを前任者から引き継いで初めて診た。外来では「薬はちゃんと飲んでいる」「問題ない」と言っていた彼だが、血液検査の結果を見ると、明らかに治療に反応していない。驚いて電話をしてみると、「実は嘘をついていて、ここ1ヶ月薬を飲んでいない」とのこと。理由を尋ねてみると、「毎日毎日何錠も薬を飲むのが辛い。精神的に拒否してしまう」とのことだった。彼の治療レジメンは一日一回内服のもので、ファーストラインとされているものではあったが、錠剤数は3。HIV外の薬も含めて一日何錠も内服している患者さんも診ていると、一瞬「これだけでも?」とも思ったが、まだ若いし、HIVの診断そのものも受け入れられていないのかもしれない。毎日3錠の薬を目にするたびに、HIV感染の事実をつきつけられて、辛いのかな、などと色々考えてしまった。治療薬の指導をしてくれるナースとも相談し、患者本人の希望もあってカウンセラーにみてもらうとともに一日一錠の薬を試してみる方向で検討しているのだが、錠剤数の負担、いわゆる”pill burden”についてあらためて考えさせられた出来事であった。

4件のコメント

  1. 美和子先生、いつも興味深く先生のブログを拝見しています。
    医者が薬を出すのは簡単ですが、患者さんが飲んでくれるかどうかは全く別の問題ですね。精神科でも日常的にこの問題に直面していて、患者さんが薬を継続してくれるようになるにはどうしたらいいか常に模索しています。インターンのころ、Depakote(デパケン)を処方されていた患者さんで「あの大きな薬を飲むのは嫌だ」と言う方がいたので、実際に薬のボトルの中をのぞいてみると錠剤の巨大さに驚きました。患者さんが嫌がるのも無理はないと思ってしまいました。医者が薬の大きさや形状を把握するのはいろいろな意味で重要ですね。

    • 奥沢先生、
      いつもどうもありがとうございます。ちょっとした急性疾患のために一時的に内服する薬と違い、慢性疾患では薬を一生飲み続けないといけない場合が多いですから、コンプライアンスの妨げになる要素を理解し、できるだけ排除するのは本当に大事だと思います。ブログでご紹介した我がプログラムディレクターは、本当にこういった部分への配慮をしている方で、勉強になります。例えば、進んだHIV患者さんなどでは、「薬を飲み込むのが大変」ということを訴える人もいます。そういう人に限って必要な薬の種類が多かったりするのですが、その場合、砕けるものは砕いたり、液体状の代替があればそれに変えたり、あるいは小児用のカプセルを使用してみたり、と手を変え品を変え工夫しています。そして私たちにもこういう対応ができるよう、どの薬が砕けるか、どの薬に小児用の小さい形状のものが存在するか、ということまで教えてくださいました(全て覚えきるのは難しいですが)。

  2. NYの研修医の頃は、ERの当番の時、自分で冷蔵庫から抗生物質をとってきて患者さんにあげることもありました。ナースが忙しいときは、自分でやったほうが早いからです。それで、シロップの抗生物質を何種類か舐めてみたことがあるのですが、千差万別で、面白かったです。クリンダマイシンは液体のものがあるのですが、味が悪すぎて子供が飲まなくなる代表的な薬です。小児の場合は味も、色も大切なファクターです。

    • 浅井先生、
      コメントありがとうございました。確かに味、色というのも大事なファクターですね。
      「味と色」ということで頭に浮かんだのは、やはりHIV関連の薬になってしまいますが、ST合剤アレルギーのある患者さんのカリニ肺炎予防投薬に使う事のあるAtovaquoneです。見た目は黄色いペンキで、味は甘く、ほとんどの人が嫌がります。病院内で患者さんの口腔内を診察した際、この薬を飲んだ直後だったため、真っ黄色だった、ということがありました。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。


バックナンバー