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小林美和子

ブログについて

小林美和子

世界何処でも通じる感染症科医という夢を掲げて、日本での研修終了後、アメリカでの留学生活を開始。ニューヨークでの内科研修、チーフレジデントを経て、米国疾病予防センター(CDC)の近接するアメリカ南部の都市で感染症科フェローシップを行う。その後WHOカンボジアオフィス勤務を経て再度アトランタに舞い戻り、2014年7月より米国CDCにてEISオフィサーとしての勤務を開始。

2012/02/25

Whitney Houston

「映画タイタニックの主役二人(ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ティカプリオ)が黒人だったらあれだけヒットしたと思うか?」これは、私が学生のときに「文化帝国主義」に話題が及んだときに投げかけられた質問でした。文化帝国主義とは、「ある国の文化または言語を別の国に植えつけ、発達させ、他文化、言語との差別化を図るなどの政策方針、あるいは行為そのものを指す」(出典:ウィキベディア)、ことで、「帝国主義」の名が示すように、植えつけるのは大抵「強者」の文化で、通常否定的な意味で使われます。冒頭の質問を投げかけた人は、続けて「日本の文化がなんとなく白人にあこがれ、なんでも欧米が良いような雰囲気があるのは、日本が戦争に負けたからであって、もしも日本が戦争に勝っていたら全然違うことになっていたはずだ」とも言いました。当時の私にとってはそれまで考えた事もなかったかなり強烈な意見でしたが、そのことを言われてから、改めて人々が「格好いい」「美しい」「素晴らしい」と思うその価値基準はどこから来ているんだろう、誰が決めているんだろう、と思ったものです。

これがなぜWhitney Houstonと関係あるのか、と思われるかもしれませんが、彼女の死をきっかけに、彼女の主演映画でヒットした映画、”The Bodyguard”をふと思い出したのです。この映画に関しては、Whitneyが歌った主題歌、”I Will Always Love You”が爆発的に売れたというのもあるかもしれませんが、前述の人に尋ねれば、「Bodyguard役がケビン・コスナー(白人)でなかったら、評価は違った」と言うのかもしれません。彼女の突然の死は世界中の人々に惜しまれましたが、とくに、音楽業界で輝かしい業績を残した黒人女性を失った事に対して、私の周囲のAfrican Americanの人たちの間ではまた一段と異なる悲しみで受け止められているような印象を受けました。

2008年11月にオバマ氏が大統領選挙に勝った時、私は南アフリカにいました。宿泊先にテレビがなかったため、同じ場所に滞在していたアメリカ人(黒人)と共に、近所に住む現地の薬剤師さん(黒人)の家に行き、3人でオバマ氏の演説をテレビで観ました。私とルームシェアしていたアメリカ人は当時妊娠していたのですが、演説に大変感動して、「これを録画して将来自分の子供に見せたい。そして、生まれや育ちに関わらず、努力すれば成功するということを伝えたい」といい、薬剤師さんの方も、自国のことではないにも関わらず、喜びに満ちていた事を覚えています。彼らの熱狂ぶりに、黒人の間にある、私には入り込めない一体感のようなものをその時感じたのです。Malcom Gladwell氏は自著の”Blink”で、人々の抱く直感の影響力について述べていますが、その中に、差別意識を抱いていないにも関わらず、ある実験を行ったところ、どうしても黒人がネガティブなイメージと結びついてしまう様子を紹介している箇所がありました(前に読んだため、詳細は忘れてしまいましたが)。冒頭の「文化帝国主義」に戻ると、黒人も「支配された」側であり、歴史が歴史であれば全く異なった様相を呈していたのかもしれません。

とりとめもなく書き留めましたが、素晴らしい歌手であったWhitney Houstonのご冥福を心よりお祈りしたいと思います。

4件のコメント

  1. >「映画タイタニックの主役二人(ケイト・ウィンスレットとレオナルド・ティカプリオ)が黒人だったらあれだけヒットしたと思うか?」
    非常に考えさせられる問いかけですね。自らの内にある無意識下の価値判断を意識せざるをえません。自分の中にある「根拠のない」価値判断には、常に批判的吟味を加えられるようにありたいと思います。

    • コメントありがとうございます。今回書かせて頂いたことのみならず、新たな環境に身を置くと、これまで自分が「常識」「当然」と思っていたことが、一体どういう根拠で「常識」であり「当然」であるんだろう、とふと考えさせられる事が多々あります。自分の専門に関しても、医学生やレジデントの素朴な質問にはっ、とさせられることが多くあります。

  2. 美和子先生、お久しぶりです!先生のブログ楽しみに読んでいます。
    Whitney の最期はあまりに悲しすぎて、DVや依存症に苦しんでいたという彼女を救う方法はなかったのかと、本当に心が痛みます。私は中学生のころ彼女の来日コンサートを見てそのパワフルな歌声と存在感に衝撃を受けました。彼女は親日家で昆布おにぎりが好きだったそうです。彼女の葬儀では、ケビンコスナーが、「ボディーガードで自分が演じた役はほかの誰でもできたけれど、レイチェルの役はホイットニーにしか演じられなかった」とスピーチしたそうです。
    アメリカには、たくさんの人種が共存している分、「カッコよさ」とか「美しさ」の定義も多様なのがうれしいですね。その価値基準の違いがこれからも縮まらないように願いたいものですね。

    • コメントありがとうございます!確かに、アメリカで多様な人種/国籍の人々が住む町にいると、様々な価値基準の違いを経験しますね。一方で、先日アメリカ西部(山岳部)の出身者で、アメリカ南部に来るまで白人以外会った事がなかった、という人もいて、本当に「アメリカ広し」だと思っています。

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