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川名正隆

ブログについて

私の受けたアメリカの医学教育の話、スタンフォードでの内科レジデント生活、 Physician Scientistを育成するシステム、シリコンバレーの学際的環境について、といった内容で情報発信できればと思っております。

川名正隆

東京に生まれ育つ。小学校卒業後1年半をテネシー州で過ごす。東京大学教養学部を卒業後再渡米し、ブラウン大学医学部を卒業。現在スタンフォード大学病院で内科レジデント、2012年より同大学循環器内科フェロー。心筋症・心不全などの心筋収縮異常の病態メカニズムに興味あり。基礎研究と臨床のバランスの取れたキャリアを模索中。

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先日、東京の大学病院で医学教育に携わる父と話していた時に「日本も参加型臨床実習を真剣に導入しなければいけない」という話が挙がりました。これはECFMGが2023年以降にアメリカでの臨床研修を望む医師に対し、USMLEの受験資格を参加型臨床実習がある教育を受けた医学部の卒業生のみに与えるという措置を導入することに事は始まるとのことです。ECFMGの考える「参加型」というのはどのような内容を指し、導入には何が必要なのか。日本での臨床実習・研修の経験はありませんが、私のブラウン大学での臨床実習の経験と、スタンフォード大学病院での内科レジデントによる学生教育の現場を紹介しながら自分なりに考えてみたいと思います。

1.卒業後の即戦力を育てるシステム

アメリカのメディカルスクールはProfessional School(=職業訓練学校)の位置づけですから、4年間過ごして卒業すると同時に即戦力として病院業務が遂行できるというのがアメリカ医学教育の中心的な目標になります。よって医療現場医師として立つ前に、学生のうちに研修医(インターン)と同じような内容の仕事ができるような実習が用意されています。この実習はSub-Internship(通称Sub-I)と呼ばれ、内科・小児科・外科・産婦人科・神経内科などの各専門科のコア実習を修了した人が次のレベルの実習をするために履修するもので、多くの人は4年生になってから履修します。通常は各学生が進学を希望する専門科のSub-Iを一つ選ぶのですが、中には複数のSub-Iをしてから進路を決める人もいます。Sub-Internship実習においては、学生はシニアレジデントの監督の下、通常3-5人程度の患者さんの”主治医”となります。毎日回診してカルテを書き、回診ではインターンと同じようにプレゼンをし、治療方針を提案することが求められます。また病棟業務でも大きな役割を与えられ、1st contact personとして看護師からの連絡を受けたり、家族への説明をしたり、他科へのコンサルトの電話をかけたりもします。つまり検査や治療のオーダーにサインができない以外は基本的にインターンと同じ業務をこなすことになります。(退役軍人病院など、電子カルテの病院では学生がオーダーを入力し、シニアレジデントがCo-sign(連署)することで正式なオーダーになるところもあり、より本物のインターン業務に近い経験ができます。)

学生にしてみればまさに一足先にインターンの業務がどういうものかを知ることができ、頑張れば同じチームのインターン達とほぼ同格の扱いを受けることになるので、自然とモチベーションも上がってきます。さすがにインターン達と同じ数の患者さんを任せることまではしませんが(というのは監督者であるシニアレジデントの負担が大きくなるため)、やる気のある学生にはなるべく多くの患者さんを回していきます。実習の最後の学生の評価は、知識を問う学力試験はなく、レジデントとアテンディング(指導医)による記述式評価であり、その際には「実際の患者さんに対しどれだけ医学的・現実的に妥当な判断ができたか」というのが大きな要素になります。また「どれだけ効率良く業務ができたか」「同僚達とのチームワーク」「他科とのコミュニケーション」など、より実務的でインターンに近い仕事ができることも大きく評価されることになります。後から学生評価に関しては改めて採り上げますが、このSub-Iでの評価は、研修を始めた時にどれだけ使える人材になりえるかというのを示すことから、レジデンシーのマッチングにおいて大きな比重を占めます。なので学生達は非常に力を入れて臨んできます。(続く)

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