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川名正隆

ブログについて

私の受けたアメリカの医学教育の話、スタンフォードでの内科レジデント生活、 Physician Scientistを育成するシステム、シリコンバレーの学際的環境について、といった内容で情報発信できればと思っております。

川名正隆

東京に生まれ育つ。小学校卒業後1年半をテネシー州で過ごす。東京大学教養学部を卒業後再渡米し、ブラウン大学医学部を卒業。現在スタンフォード大学病院で内科レジデント、2012年より同大学循環器内科フェロー。心筋症・心不全などの心筋収縮異常の病態メカニズムに興味あり。基礎研究と臨床のバランスの取れたキャリアを模索中。

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以上のようにアメリカの医学教育における臨床実習の内容を様々な角度から見てきました。私の経験では、ほとんどの学生がやる気十分で臨んでおり、特に自分の興味のある科の実習においては高評価を得ようと必死になっています。このような「学生のやる気」が出る理由は唯一つ、学校での成績がマッチングの結果に直結するからということに他なりません。アメリカは厳しい学歴競争社会ですから、相対評価で定められる成績に関しては他の学生を払い退けてでも良い成績を取ろうという姿勢が多くの学生に見られます。これは何も医学部に限った話ではなく、医学部に入るための大学・学部時代の競争、ひいては大学に入る前の高校での競争に遡ることになり、医学生には自然と身についた習性とも言う事ができます。

アメリカでは学部までの成績がGPA(Grade Point Average:A=4.0, B=3.0, C=2.0, D=1.0と換算し、各単位数を掛けて足した合計点を総単位数で割ってスコア化したもの)で標準化されているのに比べて、メディカルスクールの成績はHonor(優)/High Pass(良)/Pass(可)/Fail(不可)の4段階のところ、Honor/Pass/Failの3段階、またはPass/Failの2段階のところもあるというように学校によって異なってきます。3/4段階でつける所では、Honorの数が何個あるかというのがマッチングのアプリケーションの評価の大きなポイントとなります。各授業・実習でHonorを取るには、相対評価で学年のトップ15~20%以内に入らないといけない、という基準があるため、学生間での競争は厳しいものがあります。

ブラウン大学は多くのメディカルスクールに同じく3段階で評価をつけているのですが、スタンフォード大学はPass/Failの2段階でしか評価をせず、したがって客観的な数値としてその学生が(他の学生と比べて)どれくらいできるのかを評価できません。一見「試験に合格すればいいから楽」そうに見えるのですが、これが実際にマッチングに臨むと他の大学の学生が「Honorが8個あった」というようなことで高評価を受けたりするところを、スタンフォードの学生はそのベクトルでは評価されようないので、かえって不利になるのではないかと危惧する学生も多くいます。

学生のやる気の基となるものにもう一つ、「アメリカはコネ社会」という点が挙げられます。これは自分の希望する専門科で良い成績を取り、アテンディングに顔をよく覚えてもらい、レジデント達とも仲良くなっておくと、マッチングの時に有利になるということです。多くの学生は自分のマッチング先に希望する病院でエクスターンシップのようなものをしますが、まさに一番の目的は相手先プログラムに顔を覚えてもらい、また先方のアテンディングから推薦状を貰うことです。特に競争率が激しい専門科に応募する学生は、エクスターンシップを沢山こなしながら顔を売り込み、マッチングの際に有利になるように画策することになります。

このように学生の原動力は「全てはマッチングのため」という大目標からがあるためです。そしてレジデンシーのマッチング内容は、その後のフェローシップのマッチングに影響するため、このような「受験競争」はもう少し続きます。アメリカの臨床実習は、その競争過程をうまく利用して、レジデントを中心としたスタッフに支えられながら、「卒業すると同時に即戦力として病院業務が遂行できる医師を育成する」という本来の目的を達成するために組まれているとまとめることができます。(続く)

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