記事を探す

あめいろぐの活動を
ご支援ください。

ブログについて

世界各地で子育て奮闘中のお母さん・お父さんから同業の小児科医の先生方まで、いろんな人に読んでもらえるブログを目指します。

佐々木 潤

東京医科歯科大学卒業、横須賀海軍病院を経て、ニューヨークで一般小児研修、マイアミで小児集中治療、循環器集中治療の専門研修を修了。現在は、ボストンこども病院にて小児循環器集中治療の指導医として働いている。

佐々木 潤のブログ
2022/09/22

なぜ日本の男性医師は家事、育児ができないのか?

ハーバードメディカルスクール助教授、小児循環器集中治療医としてボストンこども病院に勤務しています。東京医科歯科大学医学部医学科を2005年に卒業し、渡米17年目です。外からの視点で、読者からの批判を覚悟の上、タブーとされるようないくつかの話題についてコラムを書いていく予定です。

なぜ日本の男性医師は家事、育児ができないのか?

まず、内閣府男女共同参画局の生活時間の国際比較についてのコラムを要約して紹介します。(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html

OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)によると,市場で労働力を提供して対価を得る有償労働時間で、日本男性は1日あたり約7時間半であった。どの国も有償労働時間は男性の方が長いが,男女比(女性を1とした場合の男性の倍率)を見ると,日本は1.7倍であった。一方で、家事,介護・看護,育児,買物,ボランティア活動などの無償労働に関わる時間で、日本男性は、わずか1日あたり41分であった。それ以上に問題なのは、男女比(男性を1とした場合の女性の比率)が5.5倍であったことである。単純計算すると、日本女性の無償労働時間は3時間45分となるが、男性の無償労働の絶対的時間が短すぎるために、有償労働時間と比べると男女比が大きくなっている。内閣府男女共同参画局はこれらの結果を踏まえ、

  • 以前は短かった女性の有償労働時間が伸び,男性も女性も有償労働時間が長いが,特に男性の有償労働時間は極端に長い。
  • 無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い。
  • 男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長く,時間的にはすでに限界まで「労働」している。

という日本の特徴をまとめ、日本男性は「(通勤時間も含めて)仕事にかける時間を見直してその分を家事・育児・介護に回しましょう!」と提案している。

医療界に限らず、長年日本労働社会を支配している絶対的な肯定論に加え、長時間の勉強により大学受験の最高峰である医学部医学科合格を勝ち取った個人の成功体験により、私たち日本人医師には、もはや信仰に近い長時間労働に対する強い肯定感があります。つまり、病院で長く働くことが優秀な医師とされる医療界の常識。私は、この長時間労働に対する考え方こそが日本の男性医師が育児、家事に参加できない原因の一つだと思います。人間ですから、自分の成功体験に基づく考えを変えることは容易なことではないです。しかし、あえて私は長時間労働が絶対的な肯定評価であることに疑問を提示します。一方で、医師の長時間労働は男性医師が、家事育児に参加できる、できないのレベルの話ではなく、厚生労働省が推進する、過労死、離職を防ぎ、医療安全性を確保するための医師の働き方改革として論じるべきだとの意見もおありでしょう。2024年4月から段階的に施行される時間外労働の上限規制の適用は、管理職にいらっしゃる先生方にとっては、頭の痛い話題かと思いますが、医師長時間労働を劇的に改善するために私は賛成です。強い外的要因がない限り、この問題には大きな変化は起こらないと思うからです。

次に、男性医師の数が圧倒的に多い現実があります。家事、育児に参加しない男性医師が、職場に長く止まる労働習慣を続けることで、子育て世代の医師が家事、育児をする時間的余裕が確保できない悪循環を生み出す状況があります。男性医師が圧倒的に多い起因は、医学部合格者数が男子学生が多数だからです。この事実に疑問を抱かないのは問題です。2021年度入試の医学科の女性の受験者数は約4万3千人で、約6万2千人の男性より3割少なく、合格者割合は女性:男性=4:6です。個別の大学を見てみると女性合格者数が5割を超えているのは、東京女子医科大学を除いて、滋賀医科大学、愛媛大学、聖マリアンナ大学しかありません。逆に男性の割合が、80%を超えているのは、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学です。まさに旧帝大ですね。米国では2020年度入学のメディカルスクールの53.7%が女子学生です。4年生一般大学の60%近くが女性であり、4年生大学を卒業してから進学するメディカルスクールがこの割合になることを反映しています。英国、フランス、ドイツ、オーストラリアでも色々な記事を見る限り、医学部生の女性は5割を超えています。しかし、女性の医学部生の割合が半分以上になっても、女性医師が責任ある立場になるにはさらに時間がかかります。米国でさえ、アカデミック領域でフルタイムで働く女性医師は40%にとどまっており、昇進も男性より少なく、女性が医学部長である割合はわずか18%に止まっているのは問題であると議論されているのです。ただ、小児科に限って言えば、初期研修医の比率はおおおまか女性:男性=8:2で、女性が圧倒的に多数であり、私が今年6月まで所属していたコーネル大学医学部小児科の学部教職員の割合も女性が8割くらいで、主任教授にあたる小児科医学部長ももちろん女性でした。私は、日本でもいずれは(早ければ早い方が良い!)医学部医学科受験者数及び入学者の半分は女性になるべきだと強く思います。

私自身、妻も医師で共働きであり、2人の子供を育てる父親です。日本の男性医師には若い時から、家事育児を主体的に分担して、家庭内での役割でも尊敬される父親になってほしいです。長時間労働を行い、家にほとんどいない父親にはなってほしくないのです。日本での共働き世帯の割合は、今や66.2%です。もっと家事育児に参加したい、したかった男性医師も多くいるはずです。いろいろな選択肢があると思いますが、どちらかが犠牲になるのではなく、夫婦ともにやりがいがある仕事を続けながら、楽しく子育てをする家庭が増えてほしいとの願いがこの記事を書く動機です。

ページトップへ↑