あめいろぐカンファレンス

ここは、米国医療における最新の話題や論争のある題材について、あめいろぐメンバーが議論を交わす場です。

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読者からのコメント

アーカイブ 第1回
2013年12月17日
救急車を呼んだときの適正価格はいくらか?
モデレーター:浅井 章博
メンバー38読者2
コメンテーター:
反田 篤志
ファーマー 容子
マーティン もと子
大内 啓
ノール 玲子
ケース :
ある早朝、あなたが勤める救急外来の前に自家用車が急停車しました。運転席から女性が駆け出し、大声で助けを求めています。病院スタッフが駆け寄ると、助手席に座った男性がぐったりしていました。急いで救急室に運びますが、すでに心肺停止状態です。心肺蘇生後なんとか一命はとりとめましたが、今後どれだけ脳機能が回復するかわからない状態です。後遺症はさけられそうにありません。

以下は、妻である女性による話です。

…患者は昨夜から胸の痛みを訴え、冷や汗をかいていました。家族は心配しましたが、本人は「大丈夫」と話していました。早朝になり痛みが続いていたため、家族は救急車を呼ぶことを強く勧めました。しかし患者はお金を理由に、頑なに拒みつづけました。最後は家族の説得に折れ、自家用車で救急に行くことに同意しました。30分間のドライブの途中で、患者は急に寝たように静かになり、呼びかけに反応しなくなりました。患者は建設現場で働いており、医療保険を持っていました。その保険は月賦が安い代わりに自己負担率および免責額(Deductible)が高く設定されており、救急車を一回呼ぶと600ドル(約6万円)が個人の負担になると言われていたのです…

妻は夫の事態に打ちひしがれ、もっと早く救急車を呼んでいたら、と嘆いています。あなたはどう考えますか?
29反田 篤志 2014年01月06日 22:08
「無料であるべきかどうか」という問いに画一的な答えはないように思いますが、あえて「日本では救急車は無料であるべきだ」というスタンスで展開してみたいと思います。

1.日本人はもともと我慢強く、有料にするとさらに我慢して、来院が遅くなってしまう
特に高齢者では、「なんでここまで我慢したの…」という症例を日本で何度も経験しました。普段から我慢しがちなのに、さらに有料化によって「来院を遅くする理由」を付け加えてしまうと、緊急に治療が必要な人の来院が遅くなり、救える命を救えなくなってしまうのでは?

2.有料化は、元々経済的に苦しい人により負担がかかる
お金がない人は、お金のある人に比べて一般的に健康状態も悪く、かつ自己負担を懸念して外来にもあまりかかろうとしません。そのような人たちが、救急車の有料化(一律料金と仮定)によって最も影響を受けます。有料化はそういった人たちの来院をさらに制限し、病気を悪化させてしまうのでは?裕福な人と貧しい人の医療格差をさらに生むのでは?

3.有料化は医療経済的にも負担が増す施策である
救急車の有料化により、一部の”ムダ”な使用は減るかもしれないが、上記に挙げたように「本当に必要な人の来院が遅れる」ことにより、発見や治療が遅れ、元々防げたはずの合併症や入院が増えるのでは?それは結局医療費支出を増加させ、医療財政を圧迫する原因になるのでは?

意見、反論お待ちしています。
30大内 啓 2014年01月11日 09:27
私はアメリカでは救急車は有料でよいと思います。ただ現在の請求の仕方が間違っていると思います。

有料のほうがよいと感じる理由は、「病状がどれくらい深刻なものか現場ではわからない」、「患者にコストのことを考える機会をつくる」、「医療システムの経済的破綻を防ぐ」などと理由はみなさんが思われているうことと同じです。

問題は今の請求システムだと思います。今はメディケイドを保持している患者は無料なのでタクシー代わりに使われています。もちろん重病な方はそれでも何の問題もないのですが、大半の軽症の方は困ります。そして一番問題なのはワーキングプアーの無保険者並びに保険が足りてない患者(underinsured)だと思います。その人たちは前に議論に出ていたように保険会社が勝手に決めたルールで重症でないと多額の支払いを請求されるかもしれません。もちろんとてもよい保険を持っている人たちは保険にその分お金を沢山支払っていますが、救急搬送料金もかからない場合もあると思います。私はそれより料金を患者個人の収入と合わせた値段を支払えばよいのではないか?と思います。アメリカの病院で無保険者がsliding scaleというシステムで個人の収入に合わせた値段を支払います。このようにしてはどうでしょうか?

日本のように「救急車を呼ぶのはおおげさだから我慢する」(カルチャー)とかアメリカのように「お金がかかるから自分の車でいく」(料金)などは医療者としてはできるだけないほうがよい状況だと思いますが、それを解消していくにはそれぞれの国にあったやり方でしていくのがベストなのではないかと思います。
31ファーマー 容子 2014年01月12日 09:25
日本での救急車の利用は無料であるべきか、有料であるべきか。個人的には、サービスを有料化にすることで生まれるベネフィットの方が高いのではないかと思います。

反田先生のおっしゃるように、日本人は我慢強く、特に高齢者にとって、有料化することにより、病院への足が遠くかもしれません。お金のある人とない人の医療格差も拡大する。そして、無駄をなくせても、結局のところ、医療財政を圧迫する、まったく、その通りだと思います。ただ、疑問に思ったのは、現実はどうなのだろうかと。

日本人は本当に我慢強くて、救急車を有料化にすることで、病院へ行くことを拒むのだろうか?既に、お金のある人ない人の格差社会は日本でもあり、今後ますます、拡大するのは避けられないのでは?国民保険の破たんも現実味を帯びる中、無駄をなくしていくことは、破たんを招く未然の策にはならないのだろうか?

大内さんが指摘したように、アメリカではメディケイドの患者は無料で救急車を利用できます。救急車だけでなく、メディケイドの患者は、病院に入院することも、手術を受けることも、薬に関しても、多大な恩恵を受けます。無料であるがために、それが悪用されることは日常で、本当に治療が必要な患者が、空きベットがなく治療を受けられない一方、お昼のランチを食べてからじゃないと退院しないと、治療の必要もない患者が病院にいつまでも居座るのも日常のことです。

確かに、アメリカの保険請求書の仕方には問題があると思います。しかし、アメリカで病気や事故にあった時には、高額な医療費がかかるということを知っておくことで、自らの健康管理、持病、事件・事故に関心を持つ人の方が多いのではないでしょうか?

もちろん、関心を持たない人もいるでしょう。でも、そういう人は、無料であっても、有料であっても元々関係ない人たちだと思うのです。消費税があがります。法の力は大きいです。避けられない消費税upで、人はどう対応するのでしょうか?つまり、人は物事が他人事じゃなくなる時、その物事に対して真剣に考えるのではないのでしょうか?

無料のサービスを受けて当然であるという概念がおそらく私の中で理解に苦しむのかもしれません。救急車の設備投資、燃料代、隊員の技術トレーニングなど、救急車のサービス維持・向上に、どれだけのお金が必要なのでしょうか?救急車はタクシーではなく、安易に使用すべきではなく、救急車は救急の時に使う乗り物なのです。我慢できるならば、車、タクシー、バス、車、公共の交通機関を使えます。

確かに、緊急の場合がどういう時なのか、医師でもその判断が難しい時に、一般の人が判断するのは不可能だと思います。だからこそ、浅井先生のおっしゃるように、救急車を使用する時はどういう時なのかという教育は、非常に重要なことだと思います。浸透するのには時間がかかるでしょう。しかし、そういう地味な教育が、ゆくゆくは、安易に救急車を利用する人達に警笛をならし、救急車は緊急の時に使うものという概念が浸透してくのではないかと思うのです。
32反田 篤志 2014年01月13日 21:46
米国では値段設定の仕方が問題だという大内さんの意見に賛成です。呼ぶ前にはいくらかかるか分からない、保険会社の采配で数十ドルから数百ドルまで幅が出てしまう制度設計は問題が大きいと思います。それが(メディケイドを除き)経済的に恵まれない人たちにより負担のかかる形で、さらに無保険者には過大な負担がかかる逆進性が、公的サービスの設計という観点からは問題に思えます。それがメディケイドになると一気に無料になってしまうことで、メディケイド受給者とそれ以外の人々の間の利用行動に大きなギャップを生んでいます。このギャップは、「メディケイド受給者」対「それ以外」という二項対立の構造を生み、「メディケイド受給者は税金を無駄遣いしている」などといった、日本でも生活保護者に対して向けられる言説を生み出しているように思えます。

救急車を有料にするとして、その値段設計には色々な方法が考えられると思いますが、いくつか例を挙げてみます。
1.もと子さんのエルパソの例のように、一律の値段を設定
2.大内さんのいうように、経済状況に応じて段階的に値段を設定
3.一律の値段を設定した上で、状況に応じて還付する

3.の還付方法は、本人からの申請、病院からの申請、確定申告の際に税金を還付、急病度に応じて還付、経済状況に応じて還付、など様々な方法が考えられます。2.と3.は似ているように見えますが、事前に経済状況によって異なる値段が決まっていることと、値段は一緒で後からお金が返ってくるかもしれないことは、受療行動に違う影響を及ぼします。

どれが望ましいのか、データがないのでなんとも言えません。しかし、公共サービスとして救急車を考えた時には、何らかの形で段階的に差をつける方が、感覚的には望ましいように思えます。
33反田 篤志 2014年01月14日 22:17
容子さんの意見にも賛成です。「日本人は本当に我慢強くて、救急車を有料化にすることで、病院へ行くことを拒むのだろうか?」という問いかけは非常に重要に思えます。救急車有料化に反対する立場として意見する場合、この部分は事実ではなく”推察”であることを明確にする必要があるでしょう。

実は、日本の神奈川県横浜市で実施された面白い研究があります。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16204137

この研究では、無作為抽出で選んだ市民に4つの状況(緊急度が低いものから高いものまで)を提示し、それぞれの状況で救急車を呼ぶかどうか、無記名の質問票を送付して聞いています。質問票には、無料から約5万円まで8つの救急車料金のうち一つが印字されており、対象者はその値段を考慮に入れて回答しています。回答者総数は約2000人です。

この研究によると、救急車を呼ぶかどうかは年収にあまり関係なく、非緊急の状況においては2万円までは救急車を呼ぶ判断はあまり影響されないこと、緊急の状況においては5万円まで影響を受けそうにないことが示されています。この結果から、2万円程度に救急車料金を設定することは妥当ではないか、と論文の筆者は結論付けています。

質問票を用いていること(主観的な行動意図しか評価できず、かつ質問の提示の仕方によって回答が大きく左右されうる)、状況が4つしか提示されていないこと、対象者の数がやや少ないことなどから、この研究だけを元に結論付けることはできませんが、上に挙げた”推察”が本当かどうか検証する意味で非常に示唆的だと思います。

もう一つ有料化の妥当性を挙げるとしたら、容子さんがおっしゃるように、病院の救急室に行くには自家用車やタクシー、公共交通機関が使えるということです。そしてそれらは無料ではありません。救急車だけが無料なのは、ある意味”バランスを欠いている”と言えるのかもしれません。

”救急車は緊急の時に使うものという概念”を浸透させる、これはまさしく公衆衛生分野での究極の目標だと言えます。”タバコは体に悪いものだという社会通念”を浸透させることに成功したのは、市民教育、キャンペーン、研究などなど、多方面からの長い時間をかけた施策によると思います。タバコでの成功が40年かかったのと同様、社会通念を変える取り組みは世代単位で考える必要があり、一般的な研究や国政選挙よりもはるかに長いスパンです。社会通念を変えるにはそれくらいの年月がかかる、ということを念頭に置いた上で、望ましい救急サービスのあり方を議論する必要があるのではないでしょうか。
34ノール 玲子 2014年01月16日 23:39
私もアメリカでは救急車は有料であってもいいと思います。保険会社、メディケイドどちらとも、一括料金にしてみては?と思いますが。やはり、救急車は救急事態に呼ぶという概念がないかぎり、無駄に使われる事が多いような気がします。根本的にはこちらの保険の仕組みが間違ってる様な気がします。これは救急室で長く仕事をすればする程実感しますね。
35ファーマー 容子 2014年01月17日 09:36
反田先生の添付された神奈川県横浜市で実地された研究は非常に面白いですね。救急車の設定料金も、さすが、日本人! 出せる金額が大きいと感じたのは私だけでしょうか?大内さんのおっしゃるように、救急車の使用の一律料金は魅力的ですよね。

一律料金がどの範囲まで可能かというに興味があります。エルパソ市はどのくらいの距離を一律料金として認めているのでしょうか?アメリカでは特にMedicareの患者に注意が必要なのですが、州を超えると救急車のサービスは基本的にカバーされないということと、個人の保険でも、州を超える、あるいは、病院からあまりにも遠い施設への救急車のサービスはカバーされるのが難しいのが現状です。距離が遠くなればなるほど、その分が、請求される仕組みです。

例えば、日本では、東京と神奈川県の境で事故にあった場合は、どちらの病院に運ばれるのでしょうね?地理的な問題、人口の違い、あるいは、救急車に実際に乗っている時間とその距離を考えて、一律料金の設定を考えると難しいのかなとも思ったりします。
36マーティン もと子 2014年01月19日 23:31
毎日忙しくしている間にずいぶんお話が進みましたね。
ここ最近朝7時に家を出て夜中の1時過ぎに帰宅という日本のサラリーマン的な殺人スケジュールをこなしていました。

毎晩何台も何台もやってくる救急車ですが、救急車用の入り口を入ってくるとまずは看護師長さんの坐っているステーションで止まり、明らかな重症患者でない限りは主訴とパラメディックによる簡単なレポートにより軽症用患者を診るファーストトラックへ行くか、重症患者を診るメインのERへ行くか看護師長さんが振り分けています。実際のところどれくらいの比率で救急車を呼ばずに自家用車で来るべきであったような患者さんが存在しているのかは私にはわかりませんが、少なくともメインのERに運ばれてきた患者さんの大半は500ドルの料金はお安いものだった、つまり救急車を呼んで正解だったというケースです。
そういう患者さんにあたるたびに、「ああよかった、EMSが存在して」とつくづく思うものです。

何でもそうですが、今まで無料のサービスであったものが急に有料になると心理的なショックは大きいですし、社会的な混乱も招きますよね。日本のEMSが無料サービスであり続けることが可能な限界まで私はそのまま突っ走っていただきたいと思っています。
ただし、財政的に限界が来る日が近いような気もしますのでその日のために日本国民の救急車使用に関しましては続けて情報を十分に流して教育をしていく必要があるでしょう。
幸いにして日本人は健康に関心が非常に深く、アメリカと違って無料でほんとうにいい情報がどこでも手に入るという環境が整っているように思いますよ。

37浅井 章博 2014年01月27日 02:33
皆さんコメントありがとうございました。

そろそろカンファレンスをまとめたいと思います。

救急車が有料である米国で、前線で働くスタッフであるコメンテーターの皆さんと、とても有意義なディスカッションが出来たと思います。

無料である日本と比べて、米国では様々な形で患者に救急車の使用料の請求がされます。ソーシャルワーカーであるファーマーさんによると、請求額は患者が加入する保険会社によって大きく異なり、ケース・バイ・ケースであることがわかりました。米国で生活する人は、一度は自分の加入保険の救急車の使用についての条項を確認しておくことが大切です。いざという時には調べている余裕はないですからね。
そして、保険に加入していてもカバーされるかどうかは、ERでの医師の評価によります。つまり、結果論的に、救急車を使うほどの重体だったかどうかを、ERの医師が書く診療記録に基づいて保険会社が後から決めるという事実が明らかになりました。とても興味深いですね。さらには、エルパソのように、地域によっては一律で使用料がきめられているところもあるようです。

大内さん、ノールさん、マーティンさんは現場からの意見を届けてくれました。今回のケースのように胸痛の場合は、生死に関わることがあり、救急車を使ったほうがいいというのが多数の意見でした。そして、訓練を受けた救急隊員や医師でさえ、現場で患者の症状の緊急性を判断するのは難しいということでした。ということは、一般の人が、自分の緊急時に 救急車をよぶかどうか、という判断は困難を極めるだろうと予想されます。その状況に、さらに金銭的な負担についても考えなければいけないのは、大変な二重苦です。しかし、悲しいかな米国ではそれが現状です。ERの現場で働くスタッフも、救急車の使用料には納得がいていない現状も垣間見れました。

では、この現状、もし変えれることができるとしたら、どうするか。そして、今は救急車が無料である日本においては、今後どういった方向性が考えられるか、という議論をしました。医療制度にくわしい反田さんから、数々の議論を持ちかけてもらいました。 
つづきます。
38浅井 章博 2014年01月30日 23:42
まずは、米国の現状に対して、有料であることは仕方ないにしても、その値段設定と請求の方法が問題だという意見がでました。たしかに、公共サービスであるはずなのに、公平性が欠落しているように思えます。特にこういった、緊急時の抜き差しならない事案に、保険会社が介在すると、不公平な料金体系になるようです。全部を一律にすることは無理があるかもしれませんが、大内さんの言うように、収入に合わせた額を設定するのもいい案のように思えました。

そして、日本の場合。やはり、無料のままでいられるなら、無料のままの方が、より多くの人に益するだろうというのが希望を込めた感想です。しかし、有料にすることに前向きなコメントもでました。無料であることを逆手に、悪用する人がでるのは、どの社会でも同じ。そして、無料であることが長く続くと、それが当然のものとなり、ありがたみが薄れてしまうのも、人間としてしょうがないことです。だから、有料化することで、人々はサービスの一方的な受け手から、公共サービスへの参加者になる。それが、人々の意識を変えて、救急車システムの効率のよい運営につながるのではないかと思えます。
”人々の意識を変える"ことについて、公共政策の立場から厳しい意見を頂きましたが、私はあえて一般の人々の意識を変えて、緊急時の救急車の正しい利用方法を社会に浸透させていくことは可能なのではないかと思いました。バイスタンダーCPRとAEDの普及が一定の効果を得ている状況を見れば、それに付随する形で救急車、EMSの最も効果的な使用方法を広めることができるはずだと信じます。

今回はじめて、あめいろぐでカンファレンスをしてみました。米国の現場で働く人々からの声を色々と聞くことが出来ました。"有料救急車"。人々の生活に近いところで、日米の差異を浮き彫りにすることができと思います。米国での価格設定や請求方法の欠陥から学ぶことは多いはず。日本が今後、有料化する時は、是非参考にしてほしいと思いました。
このカンファレンスは終了しました。