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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は、2016年10月11日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

メイヨークリニックの外来システムは、遠くから診断をつけにやって来る患者に最適化されている。その効率的な運用と提供される医療の質の高さには、正直驚かされた。

例えば、ある患者が原因不明の体重減少と呼吸困難で紹介されてくると、まず窓口となる総合内科を受診する。そこで掛ける時間は1時間以上。時に数百ページ(!)に及ぶ過去のカルテをレビューし、詳しく病歴を聞き取り、診断の糸口を探す。医師は可能性に応じて、血液検査、画像検査、専門科の受診をオーダーし、窓口の職員が予約を一気に入れていく。翌日はCT、心エコーと呼吸機能検査、次の日は循環器内科と呼吸器内科の受診に加え、総合内科の再診といった具合に診察が進む。

診断がつかなければ、検査結果に応じて追加検査や専門科の受診が組まれ、その時点で考え得る最も包括的な精密検査が極めて迅速に実行されていく。ほとんどの場合、そのプロセスは1~2週間で完了する。

驚くべきは、検査や専門科の予約の取りやすさだ。アメリカの一般的な病院と比べると、待ち時間が極端に少ない。どう計算しているのか知らないが、紹介患者用の枠を別に確保しているようだ。遠くからやって来る患者は、「早く正確な診断」をつけてもらうことに最大の価値を置く。そのためならば、多少お金が掛かっても構わない彼らにとって、メイヨーは理想的な病院だろう。

一方で、早く正確な診断をつける医療が、それを主目的としない患者にも適用される可能性は否定できない。例えば、メイヨーをかかりつけにする地元の患者は、「あまりお金をかけずに健康を保つ」ことが大事だったりする。外来において、調子が悪くても「まずは様子を見る」ことが最適かつ正解であることも多い。

一般内科外来は遠くから来た患者と地元の患者で別々に設定されているため、両者を区別するのは比較的簡単。難しいのは、両方が混在する専門外来や入院診療だ。医師が患者の目的に応じて診療方針を即座に変更できるとは限らない。

早く正確な診断に重きを置く価値観は、メイヨーではある程度支配的であるように思える。そのため、時としてやや過剰とも思える医療を提供する傾向が生まれる。

もっとも、そうした医療が良くないことなのかと問われると、正直分からない。早く正確な診断は長期的に医療費を下げるとも言えるので、画一的な解答は思い当たらない。全ての患者に最適な医療を提供するシステムとは、どんな形なのだろう?

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