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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2014年11月号(vol110)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

日本と米国の病院では、延命治療に関する対応が大きく違います。米国では、高齢になればなるほど、多くの方が”事前指示書”という形で、終末期の対応における自らの希望を事前に考え、書面にしています。

病院の側も、”入院中に亡くなりそうな人”や”死期が近い人”に限らず、すべての入院患者さんに、延命治療の希望の有無について確認することが一般的です。具体的には「入院中に心臓が止まる、呼吸が止まるなどした場合には、どのような治療を希望しますか?」と、単刀直入に尋ねます。入院中に何が起こるかは必ずしも予測できないため、若くて健康な人から重篤な疾患を持つ人まで、あらゆる患者さんに同じ質問をします。これが可能なのは、”自分に何かが起こった場合はどうしたいか”を考えることが、常識の一部になりつつあるためです。医療従事者にとっては、”何かが起こる”前に本人の希望を聴いておくことが、いざという時に強力な指針になるのです。

例えば、私が以前担当した80代の患者さんは、比較的軽症の肺炎で入院しました。独り暮らしで元気にしており、本人を含め誰もが”この入院中に死ぬかもしれない”とは思っていませんでした。しかし、抗生剤を始めても状態は悪化。さらに心不全を併発し、病棟で心肺停止。なんとか蘇生しますが、人工呼吸器につながれた状態で意識も戻りません。入院時に聴いておいた本人の意思にはこうありました。「心肺蘇生してもらいたいですが、管につながれた状態で長生きするのも、寝たきりで生きるのも嫌です。もし元のように元気になれないのであれば、自然の成り行きに任せてください」。また本人は、家族にも自分の意思を伝えていました。近しい家族と話し合い、人工呼吸器を中止して、喉の管も抜くことにしました。喉の管を抜いてから数時間後、本人は安らかに亡くなられていきました。

もし入院時に本人の意思を確認していなかったら、もし本人が自分の考えを事前に家族に伝えていなかったら、この方はどうなっていたでしょうか?現在の米国では多くの場合、最も近しい家族が”代理人”として、本人の性格や生き方を鑑み、本人に代わって延命治療の意思決定をすることが可能です。したがって、家族は本人の意思を推察し、喉の管を抜くという決断ができたかもしれません。一方で、現実的には”人工呼吸器を中止し管を抜く”という決断を下すのは非常に難しい場合があります。特に、本人が生前元気に過ごしていて、あっという間の出来事だった場合なおさらです。

個人的な経験になりますが、本人が生前に意思表示をしていなかったケースで、家族の決断によって人工呼吸器につながれたまま1年以上も、(見た目上は)意識なく過ごされている90代の患者さんを診たことがあります。医師である自分からは知る由もありませんが、それが本当に本人の望んでいた人生の終わり方だったのか、どうしても疑問に思ってしまいます。

1件のコメント

  1. 人工呼吸器や心臓マッサージだけでなく、
    胃瘻や中心静脈栄養などもどこまでやるかを考えさせられます。

    つい何十年か前までは平均寿命が短かったので、長く生きることがみんなの願いでした。
    「死」は誰にでも訪れる自然なものであるのに、
    抗うように考えられているし、向き合いたくないものとして蓋をされ、、、。

    その結果、家族でよく話さないままその状況を迎えたり、
    家族のエゴや、お金の問題で(年金が支給されるまでは生きていてほしいとか。)
    過剰な延命をしている人も少なくないように感じています。

    死生観を根底から覆すくらいのインパクトがなければ、
    変わっていかないような気がしつつ、

    意思疎通のできない患者さんを目の前に、
    「こうまでして生きることを望んでいるの?」
    と声をかけたくなることもしばしばなナースです。

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