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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2014年10月号(vol109)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

「ダ・ヴィンチ」など手術を補佐するロボットが実際の診療で使われるようになってから、米国では既に10年以上が経過しています。

ロボット補助手術では、ロボットアームの一つに付いているカメラから手術部位の映像が映し出され、外科医は顕微鏡を覗き込むようにその映像を見ながら、両手でロボットアームを操作して、手術を行います。

手術補助ロボットが登場した当初は、画期的な技術としてもてはやされ、多くの病院で導入が進みました。ロボットは、従来の手法に比べて精緻な操作を可能にし、手術の安全性を高め、合併症などを減らすと考えられました。また、従来なら大きな傷跡を残す方法でしか実施できなかった手術が、ロボットアームが入るサイズの小さい傷口で済むようになると考えられました。患者も医師も大きな期待を持っていたのです。ロボット補助手術の適応は徐々に広がり、胆嚢や胃を含めたお腹の手術や、前立腺や子宮などの骨盤内手術などに使用されています。

しかしながら、これらの手術の多くは、同様に小さな傷跡しか残さない通常の腹腔鏡手術でも実施可能であり、ここ最近ロボットの有効性を疑問視する研究成果が相次いで発表されています。特に、患者をロボット補助手術と通常の腹腔鏡手術に無作為に割り振って両者の結果を比べた研究では、ロボット補助手術において費用が余計にかかり、手術時間も長くなる一方で、出血量や入院期間、合併症といった指標には差が見られないという結果ばかりが報告されています。

これらが本当だとすれば、1台1億円以上もするロボットを導入する利点は少なくなります。患者集客には効果があるかもしれませんが、患者にとっての医療上の利益は非常に小さくなると言えるでしょう。

残念ながら、新しいものが常に良いとは限らない、というのが医療の現実です。同様に、新薬が次々と発売されますが、すべての新薬が、より安く効果が実証されている既存の薬と比べて優れているとは限りません。

現実的には、既にロボット補助手術に慣れている外科医がたくさんいるため、それらの病院でロボット手術を急に中止するわけにはいかないでしょう。一方で、ロボットを新規に導入する病院は少なくなってくるかもしれません。

とはいえ、先進技術を用いた手術にはまだ未来があると思います。例えば、外科医が現在”手術勘”で行っている部分を補強してくれる機器が開発されたらどうでしょうか。これはロボットという形態かもしれませんし、体に装着するデバイスのようなものかもしれません。手術の上手さには大きな個人差があり、それゆえ”神の手”と呼ばれる外科医がいます。しかし、普通の外科医でも彼らの”視覚”や”触覚”に近づくことができるような技術が開発できれば、すべての外科医が”神の手”により近づくことになり、未来の外科治療を大きく変えるかもしれません。

4件のコメント

  1. 反田先生お久しぶりです。記事を興味深く読ませていただきました。

    確かに記事の内容は的を得ているかもしれませんが、これは「ロボット手術に実際に従事していない、したことのない人からの視点」に過ぎず、かつかなりバイアスのかかったデータのみ(というか、ロボット関連はそういうデータしか存在しておりませんが。。。)に基づいた表面的ものであり、少々誤解を与えてしまう内容と考えられたため、敢えて補足を加えさせていただきます。

    ”これらが本当だとすれば、1台1億円以上もするロボットを導入する利点は少なくなります。患者集客には効果があるかもしれませんが、患者にとっての医療上の利益は非常に小さくなると言えるでしょう。”

    おっしゃる通りで、完全に同意です。集客力が圧倒的に高まり、ロボットでやる必要のない手術までロボットで行うという診療も横行しております。(ちなみに、個人的にもロボットはあまり好きではありません。)

    ただし、ロボット手術が従来の胸腔、腹腔鏡よりも圧倒的な力を発揮する手術、部位がいくつかあります。骨盤内や一部の縦隔手術など、従来の器具では操作が難しかった非常に狭い体腔内での操作(従来の器具は体腔内でのflexibilityはゼロで非常にやりずらく、ポート位置を失敗する等するとすべてが終わることもしばしばです。不十分な視野と操作性で中途半端な手術になることもあります。これらは論文には絶対に現れない要素ですが、患者の予後、特に癌手術では非常にcriticalです)は、ロボットが圧倒的に軍配です。手術時間、コスト、術後合併症etcなど、”表面的”なことを言及すると確かにロボットは無駄と思われるかもしれません。ただし、例えばlow anterior resectionを腹腔鏡とロボットで行った場合、明らかにロボットの方がより確実な手術が可能です。

    ロボットが導入された当時は、それはそれはものすごい時間がかかっておりました。でもこのようなlearning curveは腹腔鏡が導入された当時にもまったく同様のことが起こっておりました。ロボット手術のエキスパートの外科医と、経験のあるORチームで行った場合、手術時間もとても速く、素晴らしい手術に自分も多数関わりました。

    ”消えゆく医療”ではないと思います.

    • 福原先生

      コメントありがとうございます!お久しぶりです。この記事は、書いている段階から”外科の先生からは絶対に反論が来るだろうなー”と思っていました。福原先生の視点には概ね賛同で、適応をきちんと絞って経験のある術者が使えば、患者さんのアウトカム(再発率や死亡率など)の向上に寄与する可能性も十分あるのだろうな、と思います。というわけで、そういう(バイアスのかからない)データが今後出てくることを望みます。

      一方で、ここは福原先生も同意されているように、”ロボット”のキャッチ―なイメージが先行し、患者集客のツールに用いられている印象が、特に日本では(多分にアメリカでも)あります。すでに既存の技術となった腹腔鏡ですら、最近の群馬大の事例のように、現在でも熟練していない医師が(稀ですが)執刀するケースがあります。テクノロジーをきちんと使いこなせない時に患者に不利益が出る可能性を、私たち医師はきちんと吟味しないといけないのだと思います。そして、多分ここは医師の中でも意見が分かれるとは思うのですが、公衆衛生や医療政策に興味のある者としては、今後出てくるテクノロジーに関しては、費用対効果の観点も重要なのではないかと思っています。どんなに費用がかかっても、国費や税金・保険料が原資になる医療資源を投入して、患者のincremental outcomeを改善する(生存を3か月延長するなど)ことが、本当に良いことなのかどうなのか、疑問に思います。現場で働いている医師が、当然何が何でも患者にとってベストを尽くす、というのは正しいことだし、今後もそうあるべきだと思う一方で、政策的な観点からは、どこかに線引きが必要だと感じます。社会保障システムが破綻してしまっては、助けられる人も助けられなくなってしまいますので。

  2. 現在、トーマスジェファーソン病院で低侵襲手術のフェローをしており、主にロボット手術をしています。先生の記事を読み、なるほどなあと思いながらも、どこか違和感を覚えたのでコメントさせていただきます。
    アメリカにおいてロボット手術の適応は、泌尿器科領域では、主に前立腺癌の全摘術、腎癌の腎部分切除術ですが、さらに膀胱癌の膀胱全摘除術、部分切除術、腎盂尿管移行部狭窄症の腎盂形成術など様々な術式が採用されています。日本では現在保険適用で認められている術式は前立腺全摘除術だけですが、今後さらに適応が拡大されると期待しております。
    さて、開腹手術との比較ですが、先生のおっしゃる通り、ロボット手術が始まった当初は、夢のような手術だと聞かされておりましたが、多くの比較試験にてその優位性は思っていたほどではなかったのかもしれません。しかし、実際自分もこちらに来てロボット手術を始めましたが、圧倒的に出血量が少ないし、入院期間も短し、前立腺全摘除術に於いては、切除断端陽性率も低いという印象です。この3点に関しては多くの比較試験でも明らかです。
    術後合併症、QOLに関しては意見が分かれるところで、ロボットの優位性を示すものから全く差がないものまであります。コストも明らかにロボット手術の方が高く、その費用対効果に疑問の声が上がっているのも事実です。2014年のJCOでも、6000件を対象にした調査でロボット手術の合併症は開腹手術と同程度であると報告されました。1)
    しかし、実際に自分で手術をして感じることが、ロボット手術の方が精神的にも肉体的にも楽に手術が行えるということです。ロボットをドッキングした後は、ガウンを脱いで、iPhoneを確認して、柔らかい椅子に座って靴を脱ぎ、落ち着いて手術を行えます。3DのHDテレビのようなきれいな画面を覗き込み、より正確な解剖を理解できます。少々の出血は気腹を上げれば止まります。前立腺全摘除術では、前立腺を摘除したのち尿道と膀胱頸部を吻合しますが、自分の指のように鉗子の先が動いてくれるので、開腹手術や腹腔鏡手術に比べると圧倒的に楽に確実にできます。
    前述したJCOの論文に対する論文をそのまま引用します。2)
    Perhaps the more important message of this well-conducted study by Gandaglia et al is that overall complications between RARP and ORP are quite similar. In 2014, we are truly in the RARP postdissemination era. Whether RARP will become widely adopted is no longer in question—despite increased costs, it already has. Our recommendation for patients considering surgical treatment of their prostate cancer is not to choose a technique, but to choose a surgeon who is an expert at a given technique, to minimize surgical complication risk.
    ロボットであれ、開腹手術であれ手術の上手な人にしてもらうことが大切なのです。

    引用
    1) Comparative Effectiveness of Robot-Assisted and Open Radical Prostatectomy in the Postdissemination Era. Giorgio Gandaglia et.al. JCO 2014
    2) Limitations of Assessing Value in Robotic Surgery for Prostate Cancer: What Data Should Patients and Physicians Use to Make the Best Decision?Debasish Sundi and Misop Han. JCO 2014

    • コメントありがとうございます!先生のような方に、ロボット手術が正しい形で日本に広まるようにしていただければ、日本の患者さんも幸いだと思います。ぜひよろしくお願いします!

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