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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

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(この記事は、2014年11月18日に若手医師と医学生のための情報サイトCadetto.jp http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/ に掲載されたものです。Cadetto.jpをご覧になるには会員登録が必要です。)

A大学病院集中治療専門医のポールは、B病院の集中治療室で挿管されている患者のバイタルサインと人工呼吸器の波形、動脈血ガスの結果をモニターで確認した上で、X線撮影のオーダーと呼吸器設定の調節、1時間後の血ガス再測定を指示した。途端、部屋の電話が鳴る。C病院からだ。「508番の患者さんの血圧が下がり気味です。昇圧剤はどれを使ったらよいですか?」「ノルエピネフリンを使いましょう。5μg/分から始めて、調節はプロトコル通りで。こちらでオーダーします」

ポールは、A大学病院から100kmほど離れた3つの病院のICUを遠隔管理している。それら200床ほどの中規模病院には、常駐する集中治療専門医がいない。ICUの患者は内科や外科の主治医が担当しており、ICUに常駐しているのは処方や処置ができるPA(フィジシャン・アシスタント)と看護師だけだ。

大学病院では、集中治療専門医が複数の病院の患者を2交代制で24時間モニターしている。大学病院にいても、患者の様子、バイタルサイン、検査結果などは、全てビデオカメラや電子カルテを通じて即時に把握できる。電話での指示だけでなく、薬剤や検査などをコンピューターで直接オーダーすることも可能だ。

このようにICU患者を遠隔管理し、ICUケアをサポートする方式は「Tele-ICU」と呼ばれ、米国では1990年代後半に出現した。ここ10年で急激に増加しており、今では全米で数百の病院が導入している。

都市部の大規模病院以外では、集中治療専門医を24時間体制で配置するのは難しい。また、専門分化が進み、集中治療の研修を受けていない内科医がICU患者を管理する機会は減っている。一方で、集中治療の質への要求は高まっている。そうした状況を背景に、地理的な制約なしに集中治療専門医がICUを監督できるTele-ICUが生まれた。

過去の研究では、集中治療専門医のいない病院のICU死亡率をTele-ICUが下げる可能性が示唆されている。システム導入の費用と運営コストが現実的な課題ではあるが、より安価で使い勝手が良いシステムの開発により、恐らく今後もTele-ICUは広がり続けるだろう。

日本には、大都市圏以外にもICUを擁する小中規模病院が数多く存在する。それらの病院に集中治療専門医を配置することは、今後も現実的には困難だろう。病院の集約化が進まない日本にとっても、Tele-ICUは集中治療の質を改善する1つの方策となり得るかもしれない。

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