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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2013年6月号(vol93)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

最近、米国では従業員の健康を増進しようと取り組む企業が増えています。

従業員が健康になると、病欠が減り、仕事の能率が上がります。さらに医者にかかる頻度や入院回数が減り、医療費が下がります。企業は保険会社と契約を結んで保険料の多くを負担しているため、従業員にかかる医療費を減らして保険料を抑えることは、経済的に理にかなっているのです。

特に、米国の国民病とも言える肥満の予防・解消は喫緊の課題です。ある推計では、肥満の人は肥満でない人に比べて年間15万円ほど医療費が高く、病欠が多いとされています。それに加え、企業は職場環境に介入して適度な運動や健康的な食事を推進することで、従業員の肥満率を下げられると考えられています。

職場での運動を促すため、なんと机とトレッドミルを合体させ、仕事をしながらウォーキングできる器具を導入する企業が出ています。そこまで極端ではありませんが、メイヨークリニックでも運動の推奨に積極的に取り組んでいます。例えば、敷地内に職員用の運動施設があり、職員とその家族は市場価格の半分以下の値段でその施設の会員になれます。施設にはプール、サウナ、各種のトレーニング機器が揃っており、とても充実しています。また、施設を使えば使うほど会費が安くなるというユニークなシステムで、より頻繁に運動するインセンティブ設計がなされています。

ニューヨークに住んでいる時はスポーツクラブに入会したもののほとんど行かずにやめてしまった私ですが、こちらに来てからは毎日のように施設を利用しています。職場に近いため利便性が高く、昼休みなどの短い時間を利用して通えるのが主な理由です。

職員食堂などでも、できるだけ健康的な食事が提供されています。上述の運動施設にはフルーツバーや野菜をふんだんに使った食事を提供するカフェがあり、健康的な食事を安く食べられます。オーガニック野菜の売り場もあり、健康的なメニューを作る料理教室も開催されています。他の職員食堂でも、栄養士や医師がメニュー作成に関わり、脂肪分や糖分の少ない食事を出す努力が続けられています。しかし、一歩建物の外に出れば、多くのファストフード店が近くにあります。そして、家で食べる夕食や休日の食事にはなかなか影響が及びません。普段の食生活習慣を変えるのはなかなか難しく、職場でも誰かの持参したクッキーやカップケーキの差し入れが置かれているのをしばしば目にします。

これらの取り組みが肥満を減らすのにどのくらいの効果があるのか今のところはっきりしませんが、その方向性には賛同します。というのも、企業が職員の健康に気を遣うこと自体が、職員の士気を高める有効な策だからです。これは職員のモラルと士気で支えられている日本の医療現場にとって、重要な視点だと思います。職員食堂でおいしくて健康的な食事が食べられれば、残業も苦にならない……かもしれません。

1件のコメント

  1. 2015年6月10日 毎日新聞によると、日本政策投資銀行が世界で初めてだろうといわれる経営の格付けに「健康経営格付け」(2012年から)を行っていることを報道。ローソンでは2013年から健康診断を受診しない社員とその上司の賞与を1割以上減らす厳しい方針を打ち出しています。この結果、受診率は100%になりました。地方の企業ではスーパー(廣島県)フレスタはブランド戦略に生かしたことを実施。全社員がそれぞれの健康目標を掲げ、胸からぶら下げたカードで来店客に見てもらい「地域に健康を提供する企業」を打ち出しています。

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