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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

(この記事は2013年5月号(vol92)「ロハス・メディカル」 およびロバスト・ヘルスhttp://robust-health.jp/ に掲載されたものです。)

メイヨークリニックに赴任すると、iPadが無料で貸与されました。貸与期間中、どのように使ってもよし。ただし、壊れた場合の交換は応じず、修理代は自己負担。研修が終わったら返却すること。すべての内科系の研修医に、同様の条件で貸し出されています。なんて太っ腹!と思いましたが、それにはどうやら戦略的な意図があるようです。

メイヨーには、独自の電子カルテ接続アプリがあります。それを使えば、iPadを通じてどこからでもカルテにアクセスでき、患者情報を参照できます。研修医にとって、モバイル機器で患者情報を確認できることは大きな利点です。例えば、自分の担当患者の夜間の状態を朝食を取りながら確認でき、回診に向けて効率よく準備することができます。また、会議中などに看護師から業務連絡が来た際、手元のデータを見ながら確認や指示出しをすることができます。院内当直中でも自宅待機中でも、手軽に逐一情報を確認でき、必要に応じて電話で病棟と連絡を取ることができます。業務終了後にも気になる患者さんの情報をフォローし、当直中の医師に連絡を取ることもできます。

研修医の業務時間が明確に規定されている米国では、質の高いケアを提供するために、研修医が病院に長居しなくても継続的な診療を保つことができる環境の構築が必要です。研修医にiPadを配るのは、それを達成するための手段の一つに思えます。病院外でも仕事ができてしまうという批判はありそうですが、責任感の強い研修医にとって、気になる患者さんを残して病院を去るのは後ろ髪を引かれる思いでしょう。自宅でリラックスしながらも適切なフォローアップができるのであれば、定時に引き継ぎをすることに対する不安感も和らぎそうです。

モバイル機器の診療への活用の効果は、研修医の業務効率化だけに留まりません。個人情報保護の観点からの懸念はありますが、その活用は総合的にメリットが大きいでしょう。例えばメイヨーでは、患者がApp Storeでダウンロードできるアプリを使って自分自身の電子カルテを自由に閲覧できます。患者が入院中に自らの診療情報をスマートフォンで確認することで、診療の意思決定への積極的な参加が促され、より良好なコミュニケーションを構築する一助になりえます。また、常に患者から診療内容が見られているというプレッシャーは、医療の質を向上させうるでしょう。一方、「文句を言われないために、念のため」の検査や治療を追加する傾向を生む可能性もあります。

他にも、手術手順を説明する映像を入院中にダウンロードして見られれば、手術への理解が深まり、説明に費やす時間を節約できるかもしれません。外来診療でも、主治医と専門医間など情報共有による診療の円滑化へ幅広い応用が期待できます。日米ともに多くの先進的な取り組みがなされているこの分野、近いうちに医療に革命的な変化を起こすと予想しています。ぜひ着目してみてください。

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