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反田篤志

ブログについて

最適な医療とは何でしょうか?命が最も長らえる医療?コストがかからない医療?誰でも心おきなくかかれる医療?答えはよく分かりません。私の日米での体験や知識から、皆さんがそれを考えるためのちょっとした材料を提供できればと思います。ちなみにブログ内の意見は私個人のものであり、所属する団体や病院の意見を代表するものではありません。

反田篤志

2007年東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修後、ニューヨークで内科研修、メイヨークリニックで予防医学フェローを修める。米国内科専門医、米国予防医学専門医、公衆衛生学修士。医療の質向上を専門とする。在米日本人の健康増進に寄与することを目的に、米国医療情報プラットフォーム『あめいろぐ』を共同設立。

ACOs(Accountable Care Organizations)は最近のホットトピックです。これは医療保険の支払いに使われるモデルのことを指し、(僕にもイマイチ良く分からない)細かい部分を大幅に切り捨てて説明すると、このような感じで機能します。

まず、地域の開業医、病院がまとまって、一つの診療母体を形成します。一つの診療母体では数千人規模の患者さんを担当し、外来から入院、退院後のフォローアップまで継続的なケアを提供します。家庭医や専門医、病院はお互いに協力し、電子カルテシステムなどを通じて情報を共有します。また、診療母体は医療の質を高めるため、その集団内で様々な指標を通じてケアの質を管理し、その向上に努めます。

これらの必要条件をそろえると、その団体は晴れてACOに認定され、特別な保険支払いプログラムに入ることができます。そのプログラムでは、担当する患者数などを元に、従来の出来高払い制で計算される「予想されるコスト(保険支払い額)」が決定されます。診療母体としての全体のコストがその「予想額」を下回ると、「予想額」から「実際のコスト」を引いた「浮いたお金」の何割かがその診療母体に払い戻されます。

診療グループとしては、グループ全体でお金を節約すればするほど還付金がもらえ、利益が出ることになりますので、「安いコスト」で医療を提供するインセンティブが強くかかります。また医療の質に関しても指標の達成度を元に評価されますので、安かろう悪かろうの医療が提供されるわけではありません。

この前参加した学会では、ACOのアップデートに関するセッションがありました。また別のインタラクティブセッションでは、自分達がACOを立ち上げる委員会メンバーという設定で、グループディスカッションを行いました。どちらも興味深い内容で、特に普段は経験することのない病院管理者からの視点を学ぶことができました。

オバマ大統領肝入りのAffordable Care Actにより導入されたこのACOモデルですが、試行期間を経て色々な地域で導入が進んでいます。この導入により、今までは細切れになっていた開業医や専門医による外来治療、入院治療がシステム的に統合されます。入院中に実施した検査を繰り返すなどによる無駄な検査や治療を減らし、外来主治医と専門医、病院コーディネーターなどの綿密な連携を通じて回避可能な入院や再入院を減らすことを狙います。

こうして書くととても聞こえがいいのですが、個人的にはACOが医療のコストに与える影響はかなり限定的になると考えています。理由の一つは、相反する利益が残ること。というのも、専門医の出来高払い、病院の疾患群コード(DRG)方式支払いはそのままだからです。上で書いた「組織として節約されたお金」が計算されるのは、年度の終わりであって、毎日の診療での支払い方式は残ったままです。専門医は患者を見れば見るほど儲かるし、病院は患者を入院させればさせるほど儲かります。このように相反する利益を残したままでは、結局新たなインセンティブを複雑に歪んだインセンティブ構造に加えるだけです。

もう一つの理由は、予想されるコスト抑制額がそもそも限定的であること。検査や入院、専門医の受診を減らすことによるコスト抑制効果は、色々な計算方法により算出効果は異なるでしょうが、多めに見積もっても全医療費の一割に満たないでしょう。それを大きいと考えるかどうかは別にして、米国医療のコスト高構造を解消するための十分な解決策とは思えません。

医療の質に対する影響にも僕は懐疑的です。電子カルテの統合による情報の共有化は医療の効率的な提供につながると思いますが、平均余命やQALYなどの「重要な指標」を改善するだけの効果はないように思えます。というのも、上記のようなインセンティブや質を測る指標が加わったとしても、医師が毎日の診療のやり方を大きく変えるとは思えないからです。また実際の医療は様々な社会的要素にも大きく影響され、医療提供者側がコントロールできるものはその一部に過ぎません。したがって、医療提供者だけを対象にした政策的アプローチが大きく効果を上げるとは思えません。

とはいえ、インセンティブの正しいアライメントによる「全てのステークホルダーが最良の質の医療を提供するために同じ方向を向いた状態」を作り出す試みとしては面白いと思います。本音を言うと、インセンティブ構造を改善することによる医療の最適化という手法自体にも僕はやや懐疑的ですが、現時点では次善の策であるにせよ現実的な方向性に思えます。開業医と病院のグループ化を促すことで、グループ同士の競争によるアウトカムの改善やコスト削減も視野に入れているのでしょう。

患者ケアの中心プレーヤーとなる開業医が病院とつながる構造を描くACOは、リーダーシップを持った地域の中核病院があるような、都心からちょっと外れた地域に適正の高いモデルかもしれません。どのようにすれば効率的な医療が提供できるか考える作業を、医療提供者(開業医や病院)に委任するという考え方も結構好きです。今後注目のACO、これからも適宜アップデートしていきたいと思います。

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