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鈴木ありさ

ブログについて

UCLAならではの華やかさや、カウンティ病院の抱える影をご紹介できればと思います。

鈴木ありさ

Interventional Radiologist です。 トレーニング期間を含め、10年以上勤めたBostonのBWHと退職し、LAに移動してきました。

2013/12/27

You may leave now.

私が医師として働いているボストンは、非常に恵まれた土地柄であると改めて実感させられる出来事があった。大学と医療とコンピューターと研究が主な産業であるボストン市、そしてその郊外は外国人と接するのに慣れている土地と言えよう。幸運なことに私の主なる臨床経験はこの土地が中心だったため、自分が外国人であるというハンデを負っていることを気付かされなかった。いままで私に関わってきた患者さん、スタッフに大いに感謝である。

クリスマス休暇を利用して、フィラデルフィアで同じく放射線科医をしている義兄がボストンまでやってきた。彼もやはりアメリカ生まれの中華系米国人である。もう何代も中国語を話さず、中華名も持ったこともなく、元をたどればゴールドラッシュまで遡れるのではないかというほどの、由緒正しき「アメリカ人」である。その彼がある患者さんの生検をすることとなった。

 準備をしていた放射線科スタッフが「今日の当番医師はリン先生です」と言ったところ、患者さんの顔色がさっとかわり、「リン先生はアジア人ですか? アジア人は結構です」と堂々と言い放ったらしい。

そこで、スタッフは慌てることなく、

「リン先生は素晴らしい先生です。ご不満ならお帰りください。You may leave now.」
と言って診察室のドアを開け、帰宅を促したという。

義兄の病院のガイドラインでは、患者さんがこういった人種差別的な発言をとった場合、即刻診療拒否をして良いことになっているそうだ。アメリカでは患者さん側だけにでもなく、医師、スタッフ、そして病院にも患者さんを許否する権利がはっきりと存在している. 巨大な教育病院にいる私にとっては、実感のないガイドラインであるが、これもまたアメリカの現実なのだろう。私の病院ではインターンが中国人、レジデントがインド人、アテンディングはブラジル人で、チームに一人も生粋のアメリカ人(この場合は白人)がいないことなど日常茶飯事である。私もそれに慣れているし、患者さんたちも慣れている。だが、その環境は非常に稀であり、外国出身の医師としてそれは感謝すべき日常なのだと改めて思い知らされた。
あまりのことに、しばし言葉を失った私に対して、義兄は

「うちの病院、前にもあったんだよねー。コケージアン(本来はコーカサス人を表す言葉だが、アメリカではのwhite代わりに白色人種全体を指す言葉として広く使われている。)のお母さんが出産するとき、そのお母さんのお母さんが、孫の出産の瞬間に黒人Blackはいてほしくないって言ってさー、ドアに「黒人入室禁止」張り紙しちゃった事件ってのが。はははー」

ははは、じゃないだろう、なんて思うが、突っ込む言葉も無い。

「当然、大問題だよ。その後で、人種差別的な発言をした患者さんを病院が拒否できるようになった」

意地悪な考え方をすれば、それが「黒人VS白人」という図式だから大騒ぎになったのかもしれない、と思う。アフリカ系住民の人口が高く、建国立法の地として名高いフィラデルフィアにとってはあってはならない差別の図式だからだ。だが、東海岸の人種差別禁止の意識にアジア人はあまり入っていない。これがアジア人VSだったら? 果たして病院は動いてくれただろうか?
アメリカで生まれアメリカで育ったアジア人医師たちは、アジア人であるがゆえの差別は存在すると明言する。大学、高校においてアジア系の学生がアジア系でつるむのはよくあることだ。アジア系でつるみ、アジア系と結婚することも多い。異人種間の結婚が、つい最近までは法規上違反だった州もある。

私はこの国で生活をし、仕事をし、子供を育て、そして老いてゆく。
アジア系、日系であることは変えようもない事実であるし、それが私のバックグラウンドだが、それが何を意味しているのか、時折考えさせられる。

6件のコメント

  1. ええっ、そんな時代錯誤的な患者さんがまだいらっしゃるんですか!なんだかテレビドラマみたいですね。私はまだそのような患者さんにお会いしたことがありません。でも、韓国の人が売りに出していた家を買おうとして拒否された日本人は知っています(これは違法ですが)。アメリカもまだいろいろありますね。

    • 齋藤先生、
      カリフォルニアではさすがにアジア人への差別は少ないのではないかと思います。私もそんな差別は昔のものと思っていましたが、根深いものがあるようです。大都市を離れるとその傾向は顕著だと聞きます。まフィラデルフィアも立派な大都市なのですが、残念です。

  2. 私もこの経験あります。外来である新患が受付を済ませたあと、こっそりとナースに、私ではなく「年配の白人男性医師に変えてほしい」と伝え、違う医師に回させたことが。こう言ってくれる方がいいです。そういった感情は変えることはできないし、我慢しても仕方がないので。うちの前プログラムディレクター(年配の白人)は自分がracistであることをみとめています。そういったことがフェローを選ぶ際にも影響をしていないとはいえないとも。なんだか正直すぎて言われた方もどうしていいかなとおもいますが、みんな多かれ少なかれそういった差別の感情を持っているのは事実です。アメリカはこれでも相当いいほうですよね、多文化でお互いを認め合う基盤があるので。日本はどうでしょう?「かいじん」とよばれる、日本在住の外国人の方々の苦労は計り知れません。

    • 三枝先生、

      どこの誰とははっきり言えませんが、私の知っているプログラムディレクターの中にも、堂々とミーティングで「今年はどんなジューイッシュボーイ(ユダヤ系男子)が来てくれるかなー」と公言(失言)する人がいます。三枝先生のプログラムディレクターのように、失言していると知っているプログラムディレクターはましです。こっちの人は全く気づいていません、が、セレクションには全くバイアスがかかっていないので、どこまで本気なのかよくわかりません。

      日本でもこういった差別感情は多いかと思います。主人などは開き直って自らを「バカガイジン」と呼んでいますが……

  3. 私はアフリカ系アメリカ人の患者さんのお母さんと折り合いが合わず大声でさんざん罵倒され「訴えてやる」と脅され、身の危険を感じたので医師を交代せざるを得ない状況に追い込まれたことがあります。どうして関係が悪化してしまったのかと悩みましたが後に「息子にアジア人の価値観を押し付けられたくない」と言っていたことがわかり逆にほっとしました。私が若い女性だということも関係していたかもしれませんが、性別、年齢、人種など自分には変えようのないことが原因の一部だったとわかると開き直れる気がします。ただ、人種差別は表面上わかりやすいケースばかりではないので、私は”You May Leave Now” とは言えませんでしたが。。三枝先生のおっしゃる通りそういう患者さん側の感情を変えることは難しいですし、患者さんは医師を選べるのですから(その逆はあり得ませんが)、医師の交代を申し出てくれた方がどれだけ楽になれるか!アメリカで働く医師は常に医療訴訟におびえなくてはならず弱い立場だと感じてしまうのは私だけでしょうか。。

    • 奥沢先生、
      私も医療訴訟は怖いですね。
      日本でもアメリカでも訴訟の原因の第一は患者医師間の感情のこじれが一番の原因とされていますし。
      私は大きな教育病院に勤めていることで、「守られている」と感じることも確かです。私もかつては若く見られたこともありましたが、最近は「ところで、お幾つ?」とは聞かれなくなりました。
      人種が原因で患者さん、あるいは患者さん家族と言い争わなければならないのは、悲しいことですが、これが現実なのでしょう。アメリカにいるという選択をした我々について回るのでしょうね。

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